海賊パロ原稿

□どうか奪わないで
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いくら難しいことを言ったって
僕らはもうここでしか生きられない
だからどうか奪わないでくれ




*高尾和成


「何めちゃくちゃなことしてんだ原ァ!」
「花宮好きすぎて突っ込んじゃった!」
「死ねっ…!!」

そういや俺らの後ろを固めていた海軍たちは、突っ込んできた飛行機から逃げていなくなったんだな。

飛行機から何か、エンジン音のようなものが聞こえる気がするんだけど。

「あ、水戸部生きてる?」

原が声をかけると、飛行機から見たことのない大型バイクが出てくる。二人乗りのやつ。

防弾チョッキを着て、レーサーみたいな赤いフルフェイスのヘルメットを被ったでかい男はなんと水戸部なのか。つか似合うけど水戸部これ乗れんの?

砂埃はほぼ完全に収まり、飛行機の向こう側にいる今吉さん達が見えた。

「水戸部、コガは?いないのか。」

水戸部が首を振って、なぜか俺にもう一つのオレンジのメットを差し出した。

「は?」

水戸部にグイっと押し付けられる。
これも水戸部のメットと同じ型。


「え?なになに?誰か通訳…。」

思わず水戸部が取り出したものを見て黙る。
マジかよ。

差し出されるままメットとライフルを受け取る。

水戸部がバイクを運転して、俺が海軍を撃ちまくる。初めてやるけど面白そうだ。

上半身は動かせるし何の問題もない。

「この飛行機は操縦する人間…俺ね…も含めて4人しか乗れないんだけど。誰が乗る?」
「黛と今吉は乗れよ。」
「最年長組が情けないがな。」

笠松さんの言葉に黛さんが自虐的に笑う。




「そこに実渕も乗せてやってくれ。」


全員が飛び上がって建物を振り返った。

「赤司…!!」

遂に赤司が帰ってきた。
つまり、敵の船長を討ったということだ。

実渕さんは見た目に派手な怪我を負っているけど重傷ではなさそうだ。

「じゃあ黛と今吉と実渕だな!速く乗れ!」

笠松さんが急かして、原も含めた四人が飛行機に乗る。

「なんだこの飛行機は、うちの船にはなかったぞ?相変わらず原はめちゃくちゃだな。」

赤司は面白そうに笑いながら、長い刀を抜いた。

「さぁ、俺たちも行こう。テツヤ、大丈夫かい?」
「はい、赤司くん。」

出てきて早々、先頭を切る赤司はさすが、頼もしい。

水戸部が赤司を眺めていた俺を肘で小突いた。

「分かってるって!先頭は俺らだろ?」

水戸部が持ってきたのは俺のライフルだけど、ちゃんと動いてくれるよな?

このライフルは昔から使ってるやつで、俺が花宮さんたちの後にこの船に入った時から持っていたものだ。

今日は建物内での戦いだからと持って来なかったしチェックもしてない。
水戸部は俺の部屋から出してきたんだろう。


そうか、俺がこの海賊団に入ったのももう5年以上前のことだ。


「俺さ、黄瀬が来た時、面白くなかったんだよね。」

前を向く水戸部の背中に話しかける。

「能力持ってるからって強くて、すぐ能力者相手にも戦えて、突然入ってきたのに。」

水戸部は相槌を打たないから聞いているかどうかよく分からない。

「けど色んな修羅場をくぐって来たから分かる。能力の強さは個人の強さには関係ない。命の長さにもな。俺の弾一つで海兵は一人死ぬ。俺は30秒で60人殺せる。それを繰り返す。」

ああ、このライフルやっぱ使いやすいわ。

「するべき小さな役割を果たすことも、でかい首一つ取るのも、全部家族のためだ。それを俺は黄瀬よりも知ってる。その喜びもやりがいもな。」

だから俺は少しくらい弱くても自分を幸せだと思う。



赤司が先頭につく俺らの隣まで歩いてきた。

そして突然叫んだ。

「俺は医者だ!!」

思わず俺は唖然とする。
そんなこと、誰だって知ってるだろ?

まぁ医者である前に海賊なんだけどさ。

「だからこれ以上、俺の仕事を増やしたら許さないぞ光樹。」
「えっ…!」

不安気なフリの声に吹き出しそうになる。
要はこれ以上怪我してくれるなよってことだ。

ついていけばいいんだよ、フリ。信じたい男の背中を。

一人で強く、自由になりたかった赤司が今、誰かの下で大勢の人間と生きていることを考えたら分かる。

「高尾、頼むぞ。」
「ん?当たり前だろ、征ちゃん!」
「フッ…余裕そうだな。」
「俺と原が余裕ぶっこいてないと調子でないっしょ?」

バイクのエンジンが唸る。

水戸部が振り返った。

フルフェイスのマスクをそっと口元まで上げる。




ーー行くよ




水戸部の声が聞こえた気がした。



わりぃ水戸部、カッコ悪いとこ見せちまった。



**
氷室辰也




凛とコガと敦と、四人で船に戻ったら信じられない光景が。


「軍艦だ!軍艦きてる…!」

コガが悲鳴をあげる。

「凛、敦を連れて…!」
「何言ってんの室ちん。」

俺の指示を遮って敦が言った。

「今戦わなくて、俺に生きてる意味ないし。」

敦のいつも通りの声は、当たり前のことだと言わんばかりだった。

「そうだ、そうだね。でも応援は呼ぼう。」

すぐに無線を飛ばす。




海賊なんだから自然なことだけど、この船には色んな経歴の奴らがいる。

俺は北国の修道院育ち。
敦はいじめられっ子だった。


人は異常な者を怖がり、排除しようとする。

そうすることで自分が普通の人間であると安心し、仲間との結束を高める。

敦は格好の標的だったんだろう。

彼は幼い頃から能力者だった。

体は大きく、その上乱暴で子供っぽく、なのに行動はいつもゆっくりで、男の子なのに甘いものが大好き。



髪は紫色。



みんなこの船、この家族に対する思い入れはそれぞれで、とても強いものだ。

敦もそう、ここが居場所。




「船を守れなくて、どうして強くある意味があるんだろうね。」

俺の呟きはコガの出す指示にかき消されることなく敦の耳に届いたようで、


普通じゃない力で戦い、普通じゃない力で守る。

疎まれ排除されようとしていた君のその力を、俺は羨ましく思うよ。

強くなければ幸せにはなれないとまでは言わないが。

「最高だよ敦。」
「何なの室ちん。こんな時に壊れないで。」

ドン引きの顔で敦が見てくる。

敦もまだまだ余裕だね。

さぁ、応援が来るまで何としても、ここで持ち堪えよう。







もちろんそう決めた10分後に味方が飛行機で船に突っ込んで来るとは思わなかったけど。

船に戻ってきていた青峰が慌てて黒豹の姿でその飛行機に飛びついて軌道を変えていなければ、船は木っ端微塵だったかもしれない。

あぁ、虹村さんの力で飛行機を攻撃なんてしたら、衝撃波できっと飛行機の中の彼らは死ぬかもしれないしね。


俺は敦と海へ墜落した飛行機を見ながら笑った。




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