海賊パロ原稿

□次へ踏み出すその一歩
1ページ/2ページ

次へ踏み出すその一歩


目を開けると時刻はお昼で、部屋はとにかく静かだった。

戦いが終わって2日経った。

ベッドから体を起こすと、ベッドサイドに水が置いてある。真太郎か。

船の中がとても静かだからみんな外に出ているみたい。

暖かな日差しがカーテンを閉めた窓から漏れている。

たぶん丸一日くらいは寝ていたから、もしかしたら心配されているかもしれない。
外に出て姿を見せておいた方がいいのかな。

ゆっくりベッドから出ると、海が穏やかなのがよく分かった。

花宮のスーツのおかげで外傷が殆どないから体が楽だ。

あのスーツは敵の攻撃を避ける必要がないから相手が手を上げても退く必要がなかった。
ずっと攻撃し続けられる。

思い出して、また体が熱を持ち始めるのをなんとか抑えた。




着替えてから、音を立てずにひっそりと部屋から外に出てみると、船の外から騒がしい声がする。

あそこに出て行くの嫌だな。

「さっきから何してる。」

突然話しかけられて飛び上がって後ろを向くと、黛さん。

髪と同じ色の薄いロングカーディガンがオシャレだ。

「元気そうだな。」
『黛さんは?』

黛さん、確か笠松さんたちと一人の敵に苦しんでいた。

「元気に見えるなら元気だ。」

だめだ、少し捻くれモードらしい。

気にくわないことがあったんだろう、戦いのことかな。

「湧も外に出た方がいい。」
『知ってるよ。』

誰もが口にすることだが、黛さんに言われたのは初めてで、少しムッとした声を出してしまった。反省する。

黛さんは肩をすくめて首を振る。

「気温や海の機嫌は分かっても、外に出ないと空気は分からないだろう。」
『空気?』

尋ねると、黛さんの眉間のシワが深くなった。

「あぁ、今日は春の終わりの香りがする。」


春の終わり。

スッと目を細めて黛さんは顎をあげる。


「お前が何かを知ろうとすることで、もし傷つくようなことがあれば、黙ってない奴らがたくさんいるだろう。お前はもう居場所を守る必要はない。」

居場所を守る必要?

「時代は変わるぞ。俺たちの生きる場所ももうじき変わるだろう。」

グランドライン後半から新世界の海へ。

「俺だって面白くはない。俺は自分本位だからな。一人だったらこんな生き方はしなかったのに。」
『こんな生き方じゃない方が良かった?』
「それはやってみないと分からない。」

黛さんはそう言うとクルリと背を向けた。

部屋に戻るらしい。

彼の部屋は一階の一番奥にある虹村さんの部屋の手前にある。

船の奥に歩いていく黛さんは全体的に薄い色合いだけど、消えてしまいそうには見えなかった。



そう言えば黛さんの部屋って行ったことないな。
今度またお邪魔しよう。

難しい話をされるのかもしれないけれど。

いつも行く部屋は木吉や水戸部、真太郎に赤司くらいだからたまには、ね。




黛さんは結局何が言いたかったのか、遠回しな言い方じゃ分からない。

けれど、彼の言う春の終わりの香りとやらを感じに行こう。




**



結論から言って、外の空気が春の終わりなのかどうかは分からなかった。

まだまだ修行が必要らしい。



マストの下のところで高尾と涼太がギャーギャー騒いでいる。

何も身につけていない涼太の上半身は包帯でグルグル巻きにされている。


「煩いなぁ、あいつら。」
『…今吉さんっ。』

突然真後ろから話しかけれてビックリする。

「高尾見てたら思うわ。最後に笑うやつが結局いつも笑ってる、ってな。」

涼太たち何してるんだろ。

涼太がムキになっているのはなんとなく分かるけど。

「今回の戦いで赤司は船長を殺さんかったらしい。敵さんはすぐ島から撤退したそうや。一番怪我酷かったんはもちろん黄瀬、それから伊月やな。」

一番酷かった涼太がもうあんなに騒いでいる。タフだなぁ。
伊月はどうなんだろう。

『原の小型機は?』
「あぁあれ?島の海岸の側の家から奪ってきたらしいわ、まさに海賊行為や。虹村さんが慌てて修理代に宝石押し付けに行ってたけどな。そんなことより考えたら当たり前やけど、原、操縦出来んかったんやで。」
『え、どうなったの。』

確か今吉さんたちは小型機に乗って帰ってきたはずだ。

私は真太郎に連れられて船に着いた瞬間、良くんたちと一緒に征の治療室に投げ込まれた。
比較的元気だった良くんと私は伊月や涼太の手当てをしていたけど、飛行機が飛んでくるような音を聞いた。

「行きは建物に突っ込んで止まって、帰りは船に突っ込みかけて青峰に海に叩き落されたわ。」

建物に突っ込んで止まったって、それ操縦者が死ぬレベルじゃないのか。

やっぱり原は青峰とは違う意味でのバケモノだ。

小型機を叩き落とす青峰ももちろんバケモノだけど。

「途中で死ぬか思ったわ。」
『みんな建物で青峰とか戻ってくるの待てば良かったのに。』
「後から考えたらな。」

遠くから名前を呼ばれて見てみると、テツヤが手を振っている。
手を振りかえすと彼はニコリと笑った。

「虹村さんが少将二人と軍艦二つに圧勝したって新聞に載っとった。これから新世界の海に入るから政府のマークの目も厳しくなるで。」

大将なんて出てきた日には、この船の誰か1人くらいは命を落とすかもしれない。

「そうや、緑間に会ったか?」
『会ってない。』

そう、おかしいと思ったんだ。

真太郎が会いに来ない。

ベッドサイドに置いていた水は本当のところ誰が持ってきたのか分からないし。

「花宮と喧嘩してたで。」
『え?真太郎が?』

それは驚いた。

確かに花宮と真太郎が仲良くするとは思わないが、真太郎は喧嘩なんてしない。

「ワシは少なくとも花宮は悪くないと思ったけどな。」

え、じゃあ真太郎が悪いってこと?嘘だぁ。

今吉さんは素知らぬ顔をしている。

「別に緑間が悪いって訳ちゃうで。気持ちは分かるんやけどな。戦闘後ってこともあって気持ちも昂ぶってたんやろ。高尾が珍しく笑い飛ばしてへんかったわ。」

それって大問題なんじゃ。

『どうしてケンカしてたの?』
「本人に聞いたらええんとちゃう?ワシに言わせりゃアホみたいなことや。緑間も賢いやつやと思ってたんやけどな、湧には子供っぽい感情も向けるんやと思ったらおもろいなぁ。」

今吉さんが空を見上げて笑った。

同じように見上げて見ると、見張り台の所にいる諏佐さんが見える。



「大切なのは、生きてるってことや。」

唐突な今吉さんに首をかしげる。

「こういうこと、な。」

今吉さんが右手の人差しをゆっくり近づけてきた。

トンっとその指先が心臓の真上に触れる。

今吉さんの匂いがする。

「そうこれでええんや。この音、ワシが死ぬより前に途切れさせたら、地獄の端っこまで追いかけたる。」

いつものようにニヤリと笑わない真剣味を帯びた今吉さんは苦手だ。


「生きてさえいれば、ちょっとくらい無茶したって誰か助けられる。その無茶が引き起こす奇跡なんかもある。自分が正しいと思ったことするんやで。」

自分が正しいと思ったことをする。

風が今吉さんの前髪を揺らした。

これからの海で選択を間違えることは命を落とすということだ。

それでも自由に生きていかなければ、生きている意味がない。

ならば腹を括って、思うままに生きるのみ。


「何にも縛られへん方が、魅力的や。」

私の心臓から指を離し、今吉さんが両手を広げる。

その腰には重い刀がさしてあった。

その刀で今吉さんは奇跡を引き起こしたのか。
私は奇跡だとは思わないけれど。






黛さんも今吉さんも、もう次の世界を強く意識していた。

こんなに穏やかな空、穏やかな海にはもう会えないかもしれない。

そう思えば確かにほんの少しだけ、黛さんの感じた香りが鼻先を掠めた気がした。




→→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ