海賊パロ原稿

□空に飛び込む
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海賊番外編 空に飛び込む

「湧、お前…熱ない?」


今吉の軽く見開かれた目が私を見た。


『…え?』
「いや、風邪ひいとるやろ。熱いで?熱あるわ。」

彼の手が無遠慮に顔や首を撫で回していく。

「あかん、熱いでほんまに。赤司呼んでくる。」
『待って、今吉ちょっと待って。』
「なんでやねん。」

ベッドから立ち上がった今吉を掴む。

「てか最近ワシのこと今吉って呼ぶやんな。」
『うん、まぁね。それから別に待たなくていい。なんか反射的に掴んじゃった。』

今吉は不思議そうな顔をしながら私の部屋から出て行った。

少し前から今吉さんが私の部屋に来るようになった。

なんとなく色んな話をしているうちに、からかわれて私が怒る時とか、今吉って呼ぶことが増えて、気づいたら呼び捨ての方が多くなってた。

なんで急に今吉は私の部屋に来るようになったんだろうな。

この間の陸での戦い以来だ。



扉がガチャっと開いて征がひょこりと顔を出す。

「どうしたんだ?今吉が飛び込んで来たが。」

ニヤニヤしながら入ってきた彼は両手を伸ばして私の頬に手を当てた。

次におでこ、それから首筋。

「まぁあの島に行くためにグランドラインをかなりのスピードで逆走してまた戻ってきたんだ。気温の変化も激しかったしそれ以上に過酷な旅だったから少しくらい体調を崩してもおかしくはない。 」

本当に、暑い寒い大時化をすごいスピードで繰り返してきた。

「グランドラインは酷い病気になることも多いが、これは幸いただの疲れからくる発熱だ。たくさん栄養を取ってたくさん寝ることが回復への一番の近道だろう。」

そう言って征は私の頭を撫でた。

「あとで緑間に言ってきちんとご飯を食べさせるからな。…もしかして今吉の方がいいか?」
『なんでよ。誰でもいい。』
「そんなことを言うと彼が悲しみそうだが。」
『気にしないよ。』

なぜかここで見つめ合う。

数秒したら満足したのか征はフッと笑って出て行った。

なにあれ。

もしかして知らない間に何考えてるか読める力手に入れたとか?

怖すぎる怖すぎる。



**



〜4日後〜

ぼーっとしながら寝転んでいたら、ベッドの横のパイプから笠松さんの怒鳴り声が聞こえてきた。

「敵襲!!でかいの飛んできてるぞ!」

慌ててベッドから飛び出して靴を履く。

ドンと大きくない音が聞こえたから、たぶん飛んできた大砲の弾は海に落ちたか誰かが撃ち落としたんだろう。

銃と弾を持って防弾仕様の黒のダウンを着て部屋から飛び出す。

部屋を出たら目の前のむっくんの部屋からもむっくんと辰也が出てきた。

「湧大丈夫かい?」
『いける、まぁまぁ動ける。』

万全とは言えない。

「ちょっと着替えてくる。」
「行こう湧ちん。」

辰也は部屋へと走って行って、私とむっくんは甲板に向かった。

甲板に辿り着いた瞬間に虹村さんの怒号。

「そこ!きてるぞ!!」

甲板に走り出て海を見る。

東の方向から船が近づいてきている。

あと大砲も飛んできてるな。

「当たるぞ!」

砲台の伊月の鋭い声が通った。

青峰が上空…たぶんマストのてっぺんから跳んだな…から大砲に向かって飛んでいく。

そして飛んでくる弾に着地してまた空に飛び上がった。

踏み台にされた弾は海に落ちる。

「青峰いいね!」

なんというか、黒豹の異次元の曲芸、的な。

コガのテンションの高い声が青い空に響く。

『どうなってんのよ青峰は。』
「つーか当ててきてる。敵意しかないじゃん。速く潰そ。」

すでに能力を出してダイヤモンド化した拳を見せるむっくん。

『どうしたらいい?!』

見張り台に陣取っている笠松さんを仰ぎ見る。

「俺もそっち行く!高尾交代だ!黄瀬は…いるな!」

笠松さんはロープを使って一瞬で滑り降りてきた。

そのまま征か誰かを探して走って行ってしまった。

「めんどくせーな。」

ザキが腕を組んで敵船を睨みつける横で一哉は眠そう。

戦い前に眠そうって珍しいけど、もしかかて昨日不寝番だったのかな。

『真太郎は?』
「む、ここだ。黄瀬くらい連れて行ってもいいが。」

遠距離を自力で"飛んで"いけるのは真太郎と大我だけだ。

征は入れ替えるから飛んではいない。

涼太連れてくなんてめちゃくちゃ重いだろうけど。

「黄瀬!来い!」
「はいっス!」

涼太の首根っこを掴んだ真太郎が煙になって飛んでいく。

その後を追って大我も飛ぶ。

「おー、行った行った。俺は待機でいいか?」

黛さんが冷めた目で聞いた。

『じゃあ私も待機で。』

この間まで体調不良だったし。

「そうしておけ。あと待機は虹村さんと伊月と…森山福井でいいか。」

黛さんはすぐ同年代を選ぶ。

征と笠松さんが帰ってきた。

「すまない。遅れた…おっと。」

ドンと敵船から音がしてまた大砲が飛んでくる。

征が軽い身のこなしで船べりの上に立った。

近づいてきていた敵船から放たれた弾はすでにもうすぐそこに。

サークルを敵船まで広げて何かと入れ替える暇もないし、向こうの真太郎たちの状況もわからない。

征が船べりの上でクールに身長ほどもある刀を構えた。

弾が真っ直ぐ征に飛んでくる。

そしてそのまま、長い刃を飛んできた弾に合わせてそっと添え、弾の軌道を変えた。

空へと飛んで行く大砲。

「さっきからどいつもこいつも魅せやがって。」

黛さんが呆れたように言う。

「ああするしかないだろう。さぁ、向こうに行かないやつは避けてくれよ。」

征がサークルを広げるから黛さんと私、森山さんは走ってそのサークルから出た。

中にいたら敵船のものと入れ替えられて向こうの戦闘に参加しなくちゃいけなくなる。


「どうやら高尾も残ってるらしいな。」

黛さんが指差す見張り台の上を見ると高尾が銃身の長い銃を構えていた。

『うん、さっき笠松さんと代わってた。』

私たちは敵船に乗り込んで来られた時の待機なんだから焦ることなく見守るだけだ。

「つーか、俺は舵を握ってなきゃダメだな。」

思わず黛さんを凝視する。

だってこの人、確かに航海士なのに逆に今まで何をしていたんだか。

驚く私をおいて、黛さんはマイペースに操舵室の方向へと小走りで向かって行ってしまった。


さっきから飛んでくる弾に合わせてこちらからも大砲を発射して、弾同士を空中でぶつからせる神業を連発しているのは伊月のはず。

そのせいで諦めたのか弾が飛んでくることは少なくなったし。

虹村さんはどこにいるんだろう。

たぶん黛さんと一緒だと思うけど。

森山さんは…上の甲板にいるな。

福井さんはどこだろ、船尾かな。

ぼんやりと見張り台の高尾を見ていると、目が合った。

『えっ…。』
「湧!逃げろ!」

高尾が凄い形相で叫ぶ。

何があったかも確認せず私は銃を抜きながらそこから飛び退いた。

高尾がそう言うなら全力で逃げるしかない。

敵船に背を向けて森山さんがいるであろう方向に走る。



ドン!!!!!



さっきまで私が立っていたあたりで重い音がした。

爆発じゃない、何かが"到着"した音だ。

やばい、殺される。
久々に感じた恐怖。

大して動いてもいないのに心臓が脈打ち、汗が流れる。

もう遅いだろうけど、樽の陰に飛び込んで敵を見る。

『…っ、なにあれ。』

樽の陰から覗き見たそいつは鳥人間だった。

人の体に大きな鳥の赤い翼。

トリトリの実、モデル…なんだろ、飛べるやつ…の能力者。

でも自然系の能力じゃないから物理攻撃が効く。

銃を構える。

敵は真っ直ぐこちらを狙っているようだ。

手のように翼がバサリと後ろに動く。

『なにしようとしてるの…。』

敵がその翼を勢いよくこちらに向けて振った。

『は?!』

翼から飛び出た何十本もの羽が勢いよく飛んでくる。

反射的に樽から飛び出して反対側の木箱の陰に転がり込む。

羽はまるで鉄のように船の床に刺さっていた。

ベストを着ているから体に当たっても大丈夫だけど、頭を狙われたら終わる。

私の真後ろが一階の船室の始まりで、外についている階段を上って二階の甲板にいけるんだけど、そんなことしてたら確実に殺される。

でもここにいても死ぬな。

ふと鳥人間の後方、敵船の方で動く鮮やかな赤を見つけた。




っていうかいつも思ってるんだけど、船の階段ってめちゃくちゃ急なんだよな。

階段登ってる時に揺れたら落ちそうになるもん。






そんな馬鹿みたいなことを考えながら私は立ち上がってまっすぐ銃を構えた。

ちょっとタイミング速かったかもしれない。

敵は突然自信満々に出てきた私に驚く。

ありがとう驚いてくれて。

左胸、鳥人間だと言っても胴体を変身させていない今はそこに心臓があるはず。

狙って引き金を引く。

敵の翼がしなる。

銃弾が人の体をなした敵の左肩にあたる。

青い膜が目の前までやってくる。

無数の鋼のような羽が飛んでくる。





その瞬間、目の前の木箱が人に代わり、体が引き倒された。

眩しい太陽に目が眩む。




「なぁ。」



『…なに。』



私の上に覆いかぶさった予想外の人に驚く。

4日前の征の発言を思い出せば予想できたことだったかもしれないけど。



「緑間がよかったか?それとも赤司?火神?花宮?」


見上げた今吉の髪の毛が、青い空を背景に風で舞っている。



『ううん、今吉がよかった。』

「さよか。」

答えを求めたくせに、きっと欲しい答えも得られただろうに、今吉は淡白にそう呟いて、でもしっかりと私を抱きしめた。

今吉の背後でむっくんのダイヤモンドの腕が赤い鳥に振り下ろされたのが見えた。

「ほんでちょっとタイミング速いねん。我慢せんかい。赤司焦ってたわ。」
『やっぱり?ごめん。』


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