海賊パロ原稿
□限界までのフルスロットル
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限界までのフルスロットル
はいはい、敵襲敵襲、今行きますよ。
昼飯を食っていたら外から聞こえてきた黄瀬の金切り声。
水戸部の美味いデミグラスソースのオムライスが台無しだ。
隣で食っていた宮地は大口を開けて残りのオムライスをなんとか口に詰め込んで、皿を持って前のカウンターへ走っていった。
こういうのは戦闘前にちゃんと片付けておかないと、船が揺れてものが散乱し、あとで大惨事になるからな。
食堂全体が慌ただしく動き出す。
「俺が皿回収します!」
奴隷癖の抜けない降旗が叫んだおかげで、人の流れが出口への一本に絞られる。
奴隷癖があるとは言ったが自分からやりますと声を上げている。大きすぎる成長だ。
「黛さんも行ってください!」
食べかけのオムライスが俺の前から消えていく。
無念だ。
仕方がない。
いや、黄瀬があんな声をあげるせいで大ごとになってるのか。
湧が見張りだと食堂の扉をぶち開けて一言『敵襲。』と言って帰っていくのに。…帰るんだよな、ベッドに。
そう思いながら甲板に出て、驚いた。
「はっ、囲もうっつー魂胆か。」
腕組みをしたキャプテンが笑った。
「四方から来てますね。ですが全て異なる海賊団です。」
船を四方から囲もうとするように、前後左右から船が向かってきているのが見える。
前の甲板からだと後方からの船は見えないが、伊月の報告を信用するなら四つの海賊団が俺たちを襲撃するために同盟を組んだらしい。
思ってたより随分厄介なことになっているらしい。
「黛さん、今日は戦闘ですか?」
いつの間にか隣に赤司が立っていた。
こいつも甲板に立てた背丈ほどもある長い刀を右腕に挟んで腕組みをしている。
「今日は実渕だ。あいつの方が上手いだろ。」
通常俺はこういう海上での戦いの時は一人で舵を握っている。
だがたまたま今日はそれが実渕の番。
最近ではもう舵取りさえ実渕に負けている気がするが、元々戦闘でも買ってるとは思えないのでどちらでも同じことだ。
今吉が青峰にファイルを見せながら説明をしている。
恐らくマークにつく能力者についての説明だ。
「囲まれるまで30秒前!」
高尾が叫ぶ声。
このまま囲まれるのを大人しく待つのか?
包囲網を抜けることもできそうだが、逃げるという選択肢はこの海賊団にない。
「実渕が囲まれる直前で船首を船と船の間に入れて逃げられる体制は作るはずや。青峰を先に投入して暴れられる前に徹底マークやな。」
青峰に指示を出し終えた今吉がこっちに向かって歩いてきた。
「船には絶対入れるなよ!赤司と緑間、火神、紫原は別れて4面食い止めろ!」
キャプテンが叫ぶ。
「じゃあ俺は前からの敵に行くよ。」
「じゃあ俺は右ねー。」
赤司は場所を自在に操れるし、自然系の火神と緑間も空中を自由に動くことができる。
だが紫原はでかいが攻撃の範囲は狭い。ここに追加で黄瀬を入れた方がいいだろう。
「黄瀬、紫原のところ手伝え!」
笠松が指示を出す。
「後ろの敵が強いなら俺も後ろ行くぞ!」
火神と青峰が揃って厳しいなんてことはねぇだろ。
「じゃあ俺は左なのだよ。」
これで能力者はバラけた。
「年長組もバラけろよ!」
キャプテンがまた叫ぶ。
年長組とは、実際の年齢は知らないが恐らく20代中盤から後半で、海賊団結成やその直後からこの船にいるやつのことだ。
「じゃあ俺後ろな!」
責任感が強くリーダーシップの取れる笠松は青峰と火神をうまく使えるだろう。
ちょっと待てよ、俺は絶対青峰のところは嫌だぞ。
「じゃあ俺、赤司のとこで。」
先に言ったもん勝ちだろ。
「黄瀬と紫原んとこ行く。」
福井が右に行った。
「ほんならワシと諏佐は左いかしてもらうわ。」
「じゃあ森山、後ろ加勢行きまーす。」
あとは宮地か。
「宮地、俺だけじゃ心配だから前に来い。」
「なんだよそれ。行くけどな。」
他の年長組と比べて俺は一番キャプテンシーみたいなもんが欠落している。
それではバラけた意味がなくなるだろう。
何かあった時に一歩前に出られる人間じゃないんだよ俺は。年長組とは言えないな。
バランスを取るために残りのやつらも入っていく。
俺らのところには日向と木吉、赤司がいるから降旗が来た。
左舷は原、ザキ、花宮が入っているし、右舷も水戸部、小金井、氷室が見える。
後ろは笠松森山桜井のような、青峰と火神と一緒に戦える周りの見える人間が上手いこといったらしい。
見張り台を仰ぎ見ると、伊月が見える。
敵船はもうすぐそこまで迫っている。
高尾はキャプテンの隣か。
黒子もおそらくそこにいるだろう。
おい、一人足りないぞ。
「なぁ宮地、数が合わな…。」
隣にいた宮地に声をかけた瞬間だった。
「おい!!」
珍しく緑間が叫んだと同時に、俺の真横を通過する黒い影。
「おいこら!湧!」
虹村さんの怒鳴り声。
あぁクソ、止められなかった。
まあでも止めようと思ったら赤司でも虹村さんでもなんでも出来たか。
敵船のど真ん中に着地した湧に、思わぬタイミングで襲撃された敵たちが慌てている。
キャプテンの方を振り返ると、肩をすくめられた。
思わず左舷、緑間のほうを見る。
だがやつはもう自分の相手の敵船をまっすぐ見つめていた。
代わりに今吉が額に手を当てて悩ましげに頭を振っている。
「おー、元気だな湧!」
「何言ってんだ木吉、元気ってよりおかしいだろ!」
日向言う通りだ。
湧は全体を視界に収めながらヒットエンドランで戦うタイプだ。
青峰や原たちに代表されるように真ん中に入っていって無茶苦茶に暴れるタイプではない。
それが今は一人で敵の真ん中に飛び込んでいった。
「あぁ、もう加勢すんぞ!」
宮地が後を追って飛び込んで行く。
木吉と日向も乗り込んだ。
「降旗行くぞ。」
「はいっ!」
降旗の背中を軽く叩いて俺も船べりに手をかけた。
普段は気配を消すという卑怯な手段で立ち回るのだが、今日はてきとうに敵をあしらいつつ湧を観察する。
湧は敵と敵の間を掻い潜り走り抜け、届く範囲を手当たり次第に攻撃している。
まるで青峰だ。
そうとしか表現しようがない。
自分から進んで敵の密集した場所に走りこんで行く。
確実に一人一人減らしていくのではなく、一撃でより多くの損害を与えようとしている。
そもそも湧は体が小さく軽く、素早い動きは得意だ。
大勢の敵の中を駆け回ってはいるが回避率がハンパないし、なにより花宮の服のおかげで防御力も能力者を除いた中では断トツだろう。
つーか、あの戦闘服、日に日にオシャレになってねぇか?
特殊な特性を持った黒い合成皮革のようなもので作られているが、正直萌える。
素材が素材だから胸のあたりのテカり加減が最高。
正直舐めさせてくれるなら土下座してでも舐めたい。ふっ、変態だと罵ればいい。
まあ、そんな目で見てるのは俺と…あとは今吉と高尾くらいだろうがな。
下がショーパンになっているのは、防御力を落としてでもエロくしたかったのか、単に動きやすさ重視なのかどっちだ花宮。
いやでも、あの生地で足先まで覆うと確実に動きにくくなるか…
「おい黛!余計なこと考えてんじゃねーよ、殺すぞ!」
いや、そこは殺されるぞじゃないのか宮地。
「はい、はいっと…。」
ちゃんと動いてますよアピールで目の前の一人を確実に倒す。
次の相手に手を伸ばした時、湧のそいつの後ろから走りこんできた。
は、これどうすれば?
一瞬俺と合った目が、案外いつも通りでホッとする。
動きを伺っていると、突然湧を左から狙った男が飛び出してきた。
「あぶな……っ!」
危ないと叫ぼうとした瞬間、すんでのところで湧がその男とすれ違うように避ける。
いや、避けただけではない、避けながら手も出した。
そして湧はそこから急転回して自分を狙った男にトドメを刺しにいった。
結局俺の拳は予定通り目の前の男と交わされることになる。
「エネルギー切れはいつだ?!」
木吉が叫んだ。
湧に向けてだ。
湧は体力がコンディションによって大きく変わる。
蓄えた睡眠時間の差だ。
あいつはなにか睡眠系の能力者なんじゃないかと思うくらいに睡眠と力が完璧に同調するのだ。
「もうすぐだ。」
答えたのは赤司だった。
赤司のオペオペの実の能力もよく分からない。
文字通りなんでも好きに"オペ"することができるが、これまた曖昧だし、そもそもあいつには隠れた能力が他にもあるような気がする。それはあいつの食べた実とは関係がない生まれ持った能力ということもありえる。
「他の船はどうなってる?!」
宮地が赤司に問いかけるが赤司は答えない。
今ここにいる全員が、つまり敵も、他の船の状況を知りたいのだろう。
気にせず自分たちの仕事をすることだけを考えろということか。
「終わりだ。」
突然、赤司がそう力強く言った。
何が終わったんだ。
まだ全員倒してないぞ。
他は終わったのか?
いやもしかして…
「湧、終わりだと言っている。湧!!」
格段に落ちる。
全てのアビリティが格段に落ちて、そして眠くなるのだ。
湧は、限界があって、それを超えると。
俺は走り出した。
目の前のやつが出した手なんて関係ない。
その手の先にあるナイフの切っ先が俺の腹を掠めていく。
だが俺は前に手を伸ばした。
「湧…!!!」
静止していた彼女の体に飛びついて、そのまま甲板を転がった。
赤司の出したドームが広がって、俺たちをその圏内に入れる。
次の瞬間、抱きしめていた湧は木箱に変わった。
一歩前に出られる人間ではないと、さっき黛千尋をそう評価したのは、黛千尋自身ではなかったか。
「俺はかっこ悪いことは嫌いなんだよ、赤司。」
なぁ、お前がドーム広げるより俺の方が速いなんてな。
お前でも完璧じゃない部分があるって知れてよかったよ。
その後、湧の代わりに高尾が入り、少し経ってから完全に鎮圧することに成功した。
終始俺たちの優勢が変わることはなかった。
敵の船から這い出るようにして、自分の船に戻る。
腹からの出血は大したことないが、疲れた。
「黛さん。」
赤司の差し出す手を払いのけて立ち上がる。
「怪我人は?」
「そこそこですね。重傷者はいません。」
「そうか。お前は他のやつ構ってやれよ。」
赤司は頷いて降旗を呼んだ。
視線を感じて顔を上げると、すでに姿を表していた黒子と目が合った。
なんだなんだ?
そういえば湧どこ行った?
左の方も終わったのか、こっちに帰ってきた今吉が、その勢いのままスタスタと歩き始めたので気がついた。
あの黒い塊、湧かよ。
虹村さんが仁王立ちする横で三角座りをして、膝に顔を埋めている。
寝てんのか。
取り敢えず今吉より先に、と俺は走って駆け寄った。
「湧なんだあれは。」
『ちょっと最後失敗したけど、でもよかったでしょ。』
腕に埋めていた顔を少しだけあげて、出てきた目が俺を見る。
やはり、理性的な考えの下だったのか。
「虹村さんはなんて?」
『いつも通りだよ。』
いつも通り、まあそうか。海賊だからな、俺ら。
『自由にやれ、って。』
捨ててはいけない。
遊びだから、自由だから、強くあれる。
『今日はこれでよかった。次は分からない。するかも分からない。』
「あぁ、それでいい。あまり驚かせるなよ。」
『うん。』
今日の湧の冒険は、結果的に俺から何かを引き出してくれた。
「強くなりたいよ。」
赤司がそう呟いた。
「お前でもそう思うんだな。」
「当たり前でしょう。」
赤司は少し笑いながら降旗の体を分解した。
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バリバリ戦闘ものが書きたい。
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