脱出番外編

□20万hit企画
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斜め後ろの大切な貴女





イーグルアイっていうのは基本的にバスケでしか使わない。

そりゃ気になる時に使ったりはするけど常時試合の時みたいに見てるわけではないんだ。

これは別に言い訳じゃないし、本当に仕方ないことだったと思う。


授業中、右斜め後ろに座る湧がため息をついた。

そのため息がなぜか俺の心を騒がせる。

ため息っていうか、吐息交じりの…しかも辛そうな。

思わずイーグルアイを発動。

斜め後ろの彼女を盗み見すると、明らかに顔色が悪かった。

表情は辛そうだけど、普通に黒板を見てシャーペンを走らせている。

まだ大丈夫だ。

湧は強がる傾向があるし、失敗とか弱ってる部分を隠したがるタイプ。

具合が悪いことをクラスのみんなに悟られたくないはず。

そんなことを考えながらも彼女を観察する。



…あぁでも、そんな気を遣っている場合じゃないかもしれないな。

湧の手からペンが転がり落ちた。



「先生、蘭乃さんの具合が悪そうです。保健室に連れて行ってもいいですか。」

幸い、優しくて理解のある先生だ。

すぐに許可が出て、伊月くんありがとうとまで言われる。

「立てる?」
『うん。』

小さな声で、でも即答した湧をソッと支えて教室を出る。

これまた噂されるのかな。

俺がまだ湧のこと好きなんじゃないかとか…まあ気にしないけどな。

教室を出たところで有無を言わさず湧の体を抱き上げる。

「細いように見えて鍛えてるからな。これくらい任せておいて。」

湧は少し足をバタつかせたけれど、抵抗する労力を惜しんだのかそれ以上何もしてこなかった。

『心配されるからコガとかに言わないでね。』
「言わないよ。秘密にしておく。」

前までは湧に対して遠慮してるところがあったと思う、脱出ゲームに参加する前は。

あまり触れないようにして方がいいんじゃないかとか。

でもそれは、彼女とたくさん接触することによって自分の未練がましい気持ちを見たくなかったからだと思う。

あの日、逃げ込んだトイレの中で、俺は自分の気持ちを認め、それ告げた。

俺の勇気は虚しくも、湧は花宮と付き合うことになって、おかげで俺はもう気にしなくなったけど。

でもこうやって、思ってもないところで二人だけの秘密が出来ちゃったりして。

これだから彼女を理不尽にも意地悪だと言いたくなる。


湧はみんなと同じように仲間だけど、やっぱり特別だ。


貴女は俺の特別で、大切な人。




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