脱出番外編
□クリアしないとペナルティー部屋
1ページ/3ページ
真っ白な部屋にいた。
「正方形だな。」
「扉も何もないね。」
『前もこんなのあったけど違う感じだね。』
「妖怪がいないだけマシだわ。」
「待って待ってわけわかんねーって!なんでみんなそんな落ち着いてんすか!ちょっと!」
『和成うるさい、喧しい。』
「やかましい?!やかましいは酷い!」
確かさ、前はほら、湧だけ白い部屋で俺と原さんと花宮さんと今吉さんは別の部屋にいれられてたじゃん。
今回はさ、全員同じ部屋にいるよね。
赤司、氷室さん、湧、花宮さん。
そして俺、高尾和成。
この五人はまた脱出ゲームに参加させられてしまいました!
よーし元気にいっくぞー!!!
「で?」
「で、ってなんすか氷室さん。」
俺に向かって首を傾けた氷室さん。
取り敢えず俺たちは部屋の真ん中に丸くなって座ることにした。
「以前の"○○しないと出られない部屋"からの脱出の件はもちろん学校からの脱出を経験した全員に共有してありますよね。」
赤司の言う通り、この間の事件はちゃんと今吉さんがきっちり携帯アプリのグループトークで報告してた。
「これはそれと同じ種類のゲームなのかな?」
氷室さんがそう言った時だった。
突然真っ白で明るかった部屋が暗くなった。
「え?!ちょ、停電?!」
「離れるな。」
「いいね、どこからでもかかってきなよ。」
暗闇の中で花宮さんが瞬時に湧を捕まえて抱き寄せたのを感じた。
氷室さんは好戦的だ。
部屋の壁の一辺がライトに照らされたように丸く光る。
その壁の反対側を見ても何かが壁を照らしている様子はない。
丸く光る壁に黒い文字が映された。
"一人ずつお題をクリアしろ"
「今回は一人ずつなんだね。」
隣で赤司の声がする。
さすが、お前の声ってちょっと安心するな。
"クリア出来なければペナルティ"
ん?それって…。
"一人目の挑戦者よボタンを押せ"
部屋が元の通りに明るくなる。
するとさっきまでは何もなかった部屋に、赤いボタンが置かれた腰くらいまでの高さの台が現れていた。
「あれを押したやつから課題が課されるってわけか。」
花宮さんが立ち上がってボタンを見に行く。
ここから見てる感じ手のひらサイズの大きなボタンだ。
『ペナルティーってなんだろ。』
不安そうな顔を見せた湧が赤司に聞いた。
「クリア出来なくても脱出は出来るということは良いことなのかもしれませんね。」
そう、クリア出来なくてもいいのかなって俺も思った。
「このゲームに乗っていくしかねぇのか。」
花宮さんが眉間にしわを寄せた顔で俺らを振り返った。
「わざわざペナルティーなんて言い出したってことはクリアさせる気がねぇってことだろ。」
まあ、言われてみればそうかも。
『取り敢えず一人やってみたら?』
怖いこと言うのは湧だ。
取り敢えず一人って、このメンツだとぜってぇ俺じゃん!
「そうだね、やってみようか!」
氷室さんはノリノリ。
「さぁ誰から行く?」
花宮さんが俺を見た。
湧を見ると目が合う。
「お、俺?!やっぱり?!」
⑴No.1高尾和成
トップバッターに選ばれてしまった高尾は内心ビビりながらも赤いボタンへと向かう。
高尾が振り返ると湧が口パクで『がんばれ。』とエールを送っていた。
「じゃあ押しまーす。」
そう宣言して、ばちんと思い切りボタンを押すとまた部屋は暗くなった。
先ほどと同じようにスポットライトが当てられたように壁が丸く光る。
そこにお題が出た。
"次に出てくる漢字の読み方を60秒で答えろ"
どうやらテレビのクイズ番組のような感じで出るらしい。
高尾はあまりそういう問題は得意ではない。
湧とクイズ番組を見るといつも先に答えを言われてしまい、悔しい思いをすることの方が多かった。
高尾は他のメンバーに答えを教えてもらってはいけないのだろうと思いつつも、助けを求めるように後ろを振り返った。
そして驚愕した
そこにいたはず四人が消えていた。
「えっ、えっ、ちょ、ウソだろ?!どこいった!!」
叫び声をあげつつも高尾は腹を決めて前の壁を見た。
「答えるしか道はねーよな。」
だが全く同じ時、同じ空間で花宮たちは高尾の姿を見ていた。
というより、高尾から見えていないだけで先ほどと全く変わらず彼らはそこにいたのだ。
『和成、落ち着いてよ…。』
四人はお互いを変わらず認識できるし会話もできるが、高尾だけが一人薄くなったように見える。
「声も聞こえてなさそうだし、触れることも出来なさそうだね、なんか薄いし。」
試してみる価値はあるのだろうが、もし接触できたとして、高尾をどれだけ怖がらせるのかと考えたら試さない方が良い。
壁に大きく漢字が映し出された。
"的"という字の右側の点が漢字の下に書かれてある。
創作漢字ということか。
高尾は思わず「は?」と声を出した。
『ねえ、あれって部首は左の白なの?』
「ああたぶんな。」
右側の旁(つくり)の真ん中に位置するはずの点が下へ。
『…的外れ?』
湧が正解を呟く。
正解を言ってはいけないのではと黙っていた赤司と花宮は、あっさりと口に出してしまった湧を呆れ顔で見る。
『ごめん、言っちゃった。』
湧は誤魔化すようにあはは、と笑う。
高尾はまだ思いついていない。
「え、これ"まと"だよな?的で、点が下?下ってなに?」
下にあるということを考えすぎるとドツボにはまる。
問題は点の位置ではない、そもそもあったところからズレているということだ。
それに高尾が気づくか。
湧は祈るように手を前で組んだ。
こんなことになるならクイズ番組を一緒に見る時に先に答えを言うんじゃなかった。
丸く照らされた壁の左隅でカウントされる数字がどんどん減っていく。
30…29…。
「だーっ、わかんね!」
高尾は頭を抱えた。
的の下?的の下って普通何かあったか?
いや、一般的な的とかないだろ。
そういや花宮さんってダーツ得意だったよな。
あの人外さなさそうだもんな。
実生活でも狙った人外さなかったしな。クソっ。
ああやって人生の要所要所で狙った的を外さず生きていく人って…なんだって?
「的を外さず…?」
高尾は顔を上げた。もう一度漢字を見る。
点が、外れている。
「わかったー!!!的外れ!的外れだ!そうだろ?!」
残り10秒のところでカウントダウンが止まった。
漢字が消え、代わりに映し出されるCLEARの文字。
「よっしゃ!!」
高尾が叫ぶと、部屋が明るくなった。
振り向くと、消えていた四人が現れた。
『すごい、よかった!』
湧が高尾に走り寄って頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「え、湧どこにいたの?」
『みんなここにいたよ。見えてなかっただけ!』
高尾は信じられないといった風に花宮を見たが、彼からはなんのリアクションもなかった。
「ちょ、花宮さん俺に冷たくないっすか?!」
「お前がぎゃーぎゃーうっせぇんだよ。」
「さあ、次は誰が行く?」
氷室がみんなに問いかけた。
『順番決めちゃわない?』
「いいですね。そうしましょう。」
湧の提案に赤司が乗った。
「最後は花宮さんにお願いしてもいいですか?」
赤司が花宮に尋ねる。
「は?お前いけよ。」
「もし問題がどんどん難しくなるのであれば最後は花宮さんが良いかと思ったのですが。」
「煽てても乗らねぇぞ。」
つれない態度の花宮に赤司が肩をすくめた。
「問題が難しくなるなら先に俺が行った方がいいかな?このまま漢字が出てくるなら余計に。」
氷室が湧に尋ねる。
『え、私も自信あるわけじゃないんだけど…。』
見つめあったまま決まりそうにない二人を見て高尾は言った。
「もうじゃんけんで決めたらいいじゃないっすか。湧と氷室さん、赤司と花宮さんがじゃんけんして勝った方が先にやるってことで。」
赤司が花宮に向かって拳を出す。
こういう食えない相手とのじゃんけんはしたくねぇんだよなと思いながらも、花宮は諦めて手を出した。
⑵No.2氷室辰也
「じゃあね、頑張ってくるよ。」
じゃんけんの結果、二番手は氷室辰也に決まった。
次が湧、その次が赤司で最後が花宮。
氷室は湧たちに向かって優雅に手を振り、ボタンを押した。
高尾の時と同じように部屋は暗くなり、氷室の視界から四人が消える。
「さあ、お題は何かな?」
氷室は落ち着いた笑みを浮かべて壁を見た。
闇の中、光る壁に映し出されたお題。
"次に示される数字を60秒で答えよ"
『あ、氷室くんって数学得意だよね!』
そんな事実は知らないぞと花宮は湧を見る。
嫉妬も感じられるその視線に高尾は必死で笑いを堪えた。
"0.222222222…"
「あー、終わった俺分かんね。」
高尾がその場でくるりと回った。
『循環小数ってやつ?』
「循環小数?なにそれ。」
「無限小数の内、同じパターンの数字の列が無限に繰り返されるやつだ。無理数ではないから答えられる形に直せばいい。」
親切にも花宮は高尾に説明してやった。
無限に繰り返される?なにそれかっこいい、という返事は無視する。
「うーんなるほど。この数字は言い換えられるんだね?」
氷室はなぜか壁に背を向けて花宮たちがいるはずの方向へ手を出した。
「0.2だと2/10だよね。」
意図を察した湧は氷室に走り寄って差し出された手を掴む。
だが湧からは透けて見える彼の手は掴むことができなかった。
「じゃあ2/10よりは大きいってことだね。3/10は0.3だからそれよりは小さいし。」
2/10より大きく3/10よりは小さい。
湧も一緒に考える。
2/10の次は…
『2/9…?』
「2/9だとどうなるだろう。」
2割る9は…1の位には0が立ち、20割る9は2で、20-18はまた2だから延々に2が立つことになる。
「2/9だね!」
『すごい!』
氷室の答えを聞いたのか、壁にCLEARの文字が現れた。
部屋が明るくなって、お互いの姿が現れる。
氷室は突然目の前に現れた湧に驚いた。
『触れなかったよ。』
「残念だね。」
花宮はすかさず背後から湧の服を引っ張った。
「よし、これで二人クリアだね。次は蘭乃さんか。」
湧が赤司を見て悪戯っぽく笑った。
『ペナルティでもいいかな。』
「ほらまたすぐそーゆーこと言う!」
高尾は思わずいつも通り湧の背をバンっと叩いてしまい、慌てて花宮を見た。
→→