BLEACH中編

□特別な日
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それはまだ真夏のように暑い日のことだった。

普段は他隊並みにガヤガヤと煩い三番隊がしんと静かだ。
いつも無心で書類を捌く僕もさすがについつい物思いに耽ってしまう。

「副隊長、お茶です。」
「あぁ、湧くんありがとう。」
「今日、ダメですね、みんな。」
僕の机の朝から減らない書類の山を見て三番隊第三席、蘭乃湧が苦笑した。

「さすがに今日はね…。」
僕は壁にかけられたカレンダーを見る。
9月10日、赤い綺麗な丸で囲んだのは湧くんだろうか。

今日の隊の雰囲気から、市丸隊長が、あんなにサボってばっかりだった隊長がこんなにも慕われていたのだと伝わってきて、僕は素直に嬉しい。

「今日は仕事にならないですね。」
湧くんも楽しそうに笑うからきっと同じ気持ちなのだろう。


ねぇ、隊長。

貴方はいつも湧に対して何も出来ない僕を見て『イヅルはヘタレやなぁ』と、残念そうな顔をされていましたよね。
そして僕は最後まで貴方にかっこいい姿を見せることが出来ませんでした。

でも、僕はそろそろ動いてみようかと思うんです。

「ねぇ、湧くん。」
「どうしました?」

よく市丸隊長がしていたみたいに右手で頬杖をついて左手で湧くんの手を取る。

「干し柿、食べたいと思わない?」

僕に手を取られて戸惑っていた湧くんの顔がハッと驚いた後、くしゃりと歪んだ。

「ふくたいちょ…。」
「こんなこと、僕には似合わなかったかな?」
「いえ、そんなことないです。」
下を向いてフルフルと首を振る湧くんは本当に可愛くて、市丸隊長が箱入り娘が如くこの部屋から外に出そうとしなかったのがよく分かる。

「市丸隊長を思い出して…。」
泣きそうな顔で笑うから今度は僕の顔が歪みそうだ。

「さぁ、湧くん。僕は何となく現世に降りたいな。許可証もらってきてくれる?」
「げ、現世ですか?」
「うん、湧くんが嫌じゃなければ一緒に行きたいんだけど。」
「分かりました。」

嬉しそうに部屋を飛び出して行った湧くんを見送って、隊員達に今日はもう好きにしていいよと言いに隊首室を出た。

少し、僕にしては積極的過ぎただろうか。
隊長の誕生日に便乗してしまったことにそっと心の中で謝った。
市丸隊長、ごめんなさい。



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