BLEACH中編
□それはあたたかな
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ソウルソサエティに戻れるわけもなく僕は急いで"蘭乃三席が体調不良なので一晩現世に泊まります"と連絡をいれた。
阿散井くんに何て言われるか想像しただけで恐ろしい。
そしてこの状況だ。
現世に降りたいと言った時はまさかこんなことになるだなんて思ってなかった。
義骸を着た僕らは宿に泊まっている。
湧くんと市丸隊長にソックリなこの子と、同じ部屋で一晩過ごすだなんて…!!
「イヅルさん…。」
しかも、ギンちゃんが分かり辛いだろうからイヅルさんと呼ばせて頂きますね、と言われた半刻ほど前。
いつかは吉良副隊長だなんて他人行儀な呼び方はやめて欲しいな、なんてぼんやりと思っていた僕の願いがこの"ギンちゃん"によってあっさり叶えられてしまう。
もう僕だって湧くん、だなんて上下関係をプンプン匂わせる呼び方をやめてしまおうか。
「イヅルさん…??」
「あぁ、ごめんごめん。どうしたの?」
「あの、ギンちゃんに干し柿食べさせてあげません?」
「そうだね。」
ギンちゃんの濡れた服を着替えさせ、ビチャビチャになっていた彼の尻尾を乾かし終えた湧くんに勇気を出して話しかける。
「あー…湧くん?」
「なんですか?」
「突然なんだけど…湧って呼んでもいい、かな?」
抱きついて髪を撫でてもらっていた湧の手がピタッととまったからか、ギンちゃんが不思議そうに湧を見上げた。
「え、あの、嬉しい…です。」
「なんやらぶらぶやなぁ。」
嬉しそうに笑うギンちゃんに、いつも情けない僕を見て残念そうにしていた隊長の姿を思い出す。
「ら、らぶらぶじゃないの!!私はイヅルさんのこととっても尊敬してるのよ。」
そう言って湧はギンちゃんの柔らかそうな髪に顔を埋めた。
くすぐったそうにギンちゃんが笑う。
あの頃の三番隊のように穏やかで優しい。
『3時なったから休憩や!イヅルもやで。湧ちゃん、ボク膝枕して欲しいんや。お願い!』
『隊長〜仕方ないですね。』
『もう、隊員に膝枕してもらう隊長なんていません!それより隊長全然仕事進んでないじゃないですか!』
『ええやんイヅル、カリカリしぃな。ボクが羨ましいんか?』
『ち、ちちち違います…!!』
『イヅルあっやし〜。』
いや、仕事して下さいなんて思わなくていい分ストレスがなくていい。
本当に、休憩のことばかり考えている隊長だったな。
僕はそんなことを思い出しながら、隊のみんなにもらった干し柿を取り出してギンちゃんに見せた。
「あー!干し柿や!ボクこれ好きやねん!」
「はい、あげるよ。」
「ほんまに?!めーっちゃ嬉しい。おおきに!」
この子も干し柿が好きなのか。
美味しそうに干し柿を食べるギンちゃんを僕は複雑な気持ちで見ていた。
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