BLEACH中編

□信じられない言葉
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ギンちゃんは一体何者なんだろうか。

ご飯も干し柿も食べ終え、僕の背に張り付くギンちゃんは小さな子どもらしくあったかい。

「ふふふ、ギンちゃんイヅルさんのお背中楽しそうね。」
「イヅルの背中ええわぁ!」

背中に乗っかったギンちゃんを強めに揺らしてやればきゃっきゃと喜ぶ。

「イヅルさん重くないですか?」
「これくらい大丈夫だよ。」
「イヅルもっと揺らしてえな。」

振り落としてやろうかとブンブン体を振ると肩に食い込んだ彼の指が地味に痛い。

それにしても言動の全てが市丸隊長にそっくりだ。

「でもやっぱり湧がええ。湧抱っこして。」

僕より湧を求めるところも。
…男としては当たり前のことなんだけれどね。

それにこの子は死神が見える。
湧の霊圧に当てられなかった。
でも、彼の耳と尻尾は作り物でも何でもない。
市丸隊長がいくら狐に似ていたからといって…ごめんなさい…本当は狐でしたなんてことはないだろう。
いや、ないに決まってる。
それに決定的なこととして、この子から市丸隊長のあの霊圧が感じられない。

とにかくこの子が市丸隊長と同一人物ってことは絶対ない…と思う。

考えられるとしたら、市丸隊長の実の子どもとか。
…冗談だけど。


「ふふふ、ギンちゃんの髪柔らかいね。」
「ボクも湧の髪好きやで。つやつやしてて綺麗や。」

昔、髪を切ると言った湧を必死に止めていた隊長を思い出す。

あれは湧が移隊してきてから半年ほどたった夏のことだった。
長い髪は暑いからと切りたいな、と彼女が零した瞬間から地獄は始まって。
切ります切らんといて、の攻防は一日中繰り広げられ、僕は市丸隊長のいつも通りのわがままとたまに頑固になる湧の板挟みとなった。

書類を渡しに行く湧に隊長はずっとくっついて説得を試み、僕はそんな彼に仕事しろと説得するという口実でどうなるのだろうと二人について行った…のがいけなかった。

最終的にその戦いは九番隊から十番隊へ向かう廊下で決着を迎えることとなる。

痺れを切らした隊長が半径1キロ以内くらいだったら聞こえたんじゃないかと思うような大声で喚いたのだ。

『ボクは…!!!!湧ちゃんに膝枕してもろた時に!!!湧ちゃんの髪弄んのが好きやの…!!!!』

呆気に取られた湧が書類をバサバサと落とし、余りの大声に大量の隊士達が駆けつけ、恥ずかしさの余り隊長と湧は瞬歩で逃げ出した。

取り残される僕。

そして僕は色んな人に見られながら湧が落とした書類を掻き集め、人生で最も恥ずかしい思いをしたのだ。

何て子供っぽい理由だったのだろうか。
思い出しただけでも恥ずかしくて未だに赤面してしまう。

これは僕が市丸隊長に振り回された中で1番過酷だった出来事かもしれない。










ギンちゃんと一緒にいるとそんな懐かしい昔の出来事をまざまざと思い出す。


幸せそうな顔でギンちゃんに頬擦りする湧は彼が何者かなんてきっとどうでもいいのだろう。
いや、知りたくないのかもしれない。

それにこの子がきっとどんな子であろうと、湧は全身全霊でこうやって可愛がってあげるのだろう。

「湧とイヅルはいっつも何してんの?」
「えっとね…大量の書類を片付けたり…」

それが1番に出てくるなんて死神らしくなくて泣ける。

「でっかい怪物と戦ったりしてるよ。」
「湧戦うん?強いん?」
「うん、強いよ!でもね、イヅルさんの方が強いんだよ。」

ギンちゃんに注がれていた優しい眼差しが僕に向けられて少しドキドキする。

へぇ〜と感心したようにギンちゃんは僕を見る。

「イヅル、湧のこと守ったりや!怪我さしたらボクが許さへんで!」
「っ……!!!」

ギンちゃんの言葉に絶句した。

だってその言葉は、湧と出会ってすぐの頃に、市丸隊長から言われたセリフと殆ど同じだったから…。



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