BLEACH中編
□欲しかった言葉
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布団は2組しかなくて、もちろん僕と湧が一緒に寝るわけでもなく、ギンちゃんと湧が一緒に寝ることになった。
「ギンちゃん眠い?」
「ううん、眠とうない。」
「あらあら。困ったね。」
布団に寝かせたギンちゃんの頭をよしよしと撫でる湧を見ていると、僕は結婚して子供が出来たんじゃないかと錯覚しそうだ。
「あったかくしたら眠くなるんじゃないかな。」
一緒に布団に入ってやるように勧めると湧は素直に布団に入った。
湧が布団に入るところなんて始めて見るから顔が赤くなってるんじゃないかって心配だ。
今日は市丸隊長の誕生日じゃなくて僕の誕生日なんじゃないか。
「なんかお話して。」
「どんなお話がいいの?」
湧はギンちゃんの質問にはよく答えるのに自分からギンちゃんには何も聞かない。
与えられたこの奇跡の様な時間を与えられるがままに受け取って、僕も湧がそれで幸せなら満足だ。
それにきっと僕だって、1人でギンちゃんに出会っていたとしても何も聞かないと思う。
聞いても教えてくれない気がするし、欲しい答えが何かも分からないし、聞いてしまえばこの奇跡が跡形もなくなくなってしまう様な気がするから。
湧も同じ様に考えているのだろうか。
「ねぇ、ギンちゃんって干し芋嫌い?」
ハッとして湧を見つめるとさっきまでと同じ優しい笑顔でギンちゃんを見ていた。
「うん、嫌い。全然おいしないもん。」
あぁ、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
「そう、よかった。」
よかったと答えた湧はきっと僕と同じ気持ちだ。
「ギンちゃん大好きよ。」
湧がギンちゃんのことをギュッと抱きしめて、彼女の長い髪から見え隠れするギンちゃんはとても幸せそうで。
「うん、僕も湧のこと好きや。イヅルのことも好きやで。」
その一言に体が震えそうになる。
「僕もだよ…。」
市丸隊長は一度も僕を大切だとかましてや好きだなんて言わなかった。
そんなこと素直に言う人じゃなくて、それでなくても照れ隠しは一流ものだった。
『隊長、お慕いしております!!』
『ずっとついていきます!!』
『なんや…大げさな。』
でも大切に思ってくれていたのは言動の端々から感じていた。
ギンちゃんの顔にかかる湧の髪を除けてやって頭を撫でると彼はスッと目を閉じた。
市丸隊長の代わりに素直なこの子が言ってくれたのだろうか。
僕はずっと隊長にそう言って欲しかったのかもしれない。
今ここに交錯する想い想われる感情に、僕は感極まって本気で危うく涙が零れ落ちそうになる。
ギンちゃんに顔をうずめる湧も泣いているのだろうか。
「ねぇ、抱きしめてもいいかい…?」
掠れた声が出た。
「うん、イヅルもギュッてして。」
湧に抱きしめられたまま少し苦しげに答えるギンちゃんも、動かない湧も、愛おしくて愛おしくて。
僕は抑えきれなくなった感情を伝えようと布団の上から二人を抱きしめた。
あぁ、市丸隊長。
貴方のこともこんなに愛おしい。
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