BLEACH中編

□こんなにも幸せ
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朝になってやっぱり思っていた通り、ギンちゃんの姿はどこにもなかった。

目覚めた時の湧は僕が心配していたよりもっと普通の反応で、きっと彼女もこうなることを予感していたのだと思う。

「一体何だったんだろうね。」
「本当に…あれは…夢だったんでしょうか。」

そう、まるで夢のようだった。

「僕たちは化かされていたのかな?」
「狐にですか?」
「それか市丸隊長に化けさせられてたとか?」


「何にしても、市丸隊長の仕業、ですかね…。」

パタパタと音がして湧を見れば、俯いて彼女の目から畳に落ちるのは涙。

「っ…ひっ……うっ、うっ…。」
湧の涙は止まらない。

市丸隊長が僕らを一泡吹かせようとしたのか、彼が僕らを求めていたのか、僕に何らかのチャンスをくれたのか、真相は定かではないけれど、でもそれを決めるのは自分自身な気がする。

昔、市丸隊長は時々、遊び半分かのように僕に色んなチャンスをくれた。
何一つものに出来なかったあの日の甘えた自分はもういない。

だってもう彼はいないのだから。

「ねぇ、湧。」

改まって名前を呼べば湧も僕の雰囲気を察したのか涙を拭い、疲れた顔を引き締めた。

「昨日、僕は君を守らせて欲しいと言ったね。」

湧の目は真っ赤になっている。

「それはね、上司としてだけじゃないんだ。僕は君のことを、君の一番近くにいられる一人の男として守りたい。」

湧の両手を包み込んでジッと彼女を見つめた。



君の瞳から涙が落ちるのはもう見たくない。



「ずっとずっと前から、湧のことが好きでした。」

「どうか僕に、貴女を愛する者として守らせて下さい。」


湧の見開かれた瞳からまた止めどない涙が溢れて、僕は彼女を力一杯抱きしめた。

「僕は絶対、湧のそばから離れない。」

ついにわぁわぁと声を上げて泣き始めた湧の背中を優しく撫でる。
こうやって子どものように泣きたかったのはいつからだろう。

それはきっと隊長の亡骸を見た時から、僕だって。

「あっ……ヒッ、ぐっ、……うっ、うわぁ〜〜〜ん!!!」

湧は体を震わせて泣き続ける。

僕らは大きなものを失った。

ギンちゃんは失ったものの大きさと大切さに改めて気づかせてくれた。

僕の腕の中で大声で泣く湧はちゃんと失ったものを受け入れて、前に進んでいけるだろう。

僕の目からはらりと涙が一筋落ちた。






義骸を脱いでソウルソサエティへと帰ろうとした時に気がついた。

「湧、傘返さないと…。」

昨日どこかの家から借りた傘のことをすっかり忘れていた。

「私もついていきます、副隊…「イヅルって呼んで欲しいな。」

彼女の手を取ってそうお願いすると少しはにかみながら手を握り返してくれた。

「じゃあ取り敢えずイヅルさんから始めてみます。」





市丸隊長、見ておられますか。

僕らのことは心配しないで下さい。

ほら、こんなに幸せです。


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