BLEACH中編

□毛先まで色気
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平子は長い髪を靡かせながら五番隊への道を歩いていた。

100年前の話ではない。
今の話である。

「湧、戻ったでー。」
『遅……え?ひらっ、ひら…!』
「誰がヒラヒラや。」
『髪、どうされたんですか?!』

湧は初めて見る平子の長髪に動揺している。

「技局の連中に一日限りの超育毛剤頼んでみたんや。どうや?」
『どうって…。』

湧は手元の書類に視線を戻した。

『そんな事してるとその長い髪に願い事括り付けますよ。』

早く仕事始めて下さい、と言う湧はいつもそれを冷たい目で睨みながら言う彼女とは違って思いっきり目を逸らしている。

平子はそんな彼女を見てニヤニヤしながら書類を手に取った。

「そういや京楽隊長が八番隊隊舎前にでっかい笹の葉持って来てたで。」
『今年も七夕祭りあるんですか。』
「なぁ、一緒に行かへん?もう誰か先約決まっとる?」
『いえ、決まっていません。ご一緒させて頂きます。』

平子は満足気に頷いた。




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───夜。

美しいオレンジ色が空を染め上げる頃。

平子は湧を連れて八番隊隊舎前に着いた。

もう人はたくさん集まってきている。

「平子く〜ん!湧ちゃんと来たんだね。」
『京楽隊長、こんばんは。』
「いやぁそれにしても平子くん、昔に戻ったみたいだねぇ。」

京楽は懐かしそうにそう言うと二人に酒の入った瓢箪を押しつけて忙しそうにどこかへ消えていった。

京楽だけでなく100年前の平子を知る者はみな彼の髪を見て懐かしがった。

平子の髪が目立つのかたくさんの人に話しかけられる。

湧はさすがに疲れた顔を見せ始めた。

今日も変わらず十一番隊に乗り込み一角と一本勝負したあと、自隊の隊士の歩法指導もしたのだ。

平子はそんな湧の様子に気づいてその手を取った。

「ちょお疲れたか?上行こか。」

二人は隊舎前が見渡せる建物の上に登った。

「おいで、ここ座り。」

平子は建物の淵に座って足をぶらぶらさせながら自分の右隣をポンポンと叩いた。

『みんな、隊長の髪を見て喜んでましたね。』
「100年振りやからなぁ。」

平子は湧に見せつけるようにして髪を妖艶に掻き上げてみせた。

『綺麗…です。』
「ん?まぁ俺の自慢の髪やからな。」

平子はじわりと湧との距離を詰めた。
湧は思わず下がろうとするが平子の指が自分の髪に差し込まれて固まった。

「湧の髪かてちゃんと手入れしたら綺麗なるわ。」

少し青みがかった黒い髪を耳に掛けてやると、湧は夜目にも鮮やかに頬を染めた。

その意外な反応に平子も熱が高まるのを感じた。

わざわざ技局に頼んだ甲斐があった。

平子は自分の髪を一房取って湧に触れさせた。

『すごい…滑らか。』

うっとりした顔で自分の髪を梳く湧。
平子は彼女に対する気持ちを押し留めるのに限界を感じ始めた。


「湧、そろそろ笹の葉燃やされんで。」

下で京楽が笹の葉に火をつけているのが見える。

すぐに火は燃え広がり、みんなが吊るした願いと共に炎を上げた。

「願い事何て書いたんや?」
『そんな野暮なこと聞かないで下さい。』
「悪かったな。」

赤々と燃える火を見つめる湧の横顔。
揺らめく炎が彼女の顔に映す光と影が平子を翻弄する。


これ以上飲み込まれないように、平子は湧の横顔から目線を外し、代わりにその手を握った。

「あの炎、消えるまで手ェ握っててくれや。」

湧は何も言わずにその手を握り返した。



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平子さん付き合ってないのに手握るとかやりますね。

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