BLEACH中編
□これからはずっと
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*市丸ギンが生きていたらこうなっていた
市丸ギンが、私の中では市丸隊長でしかなかった彼が私の下について早一ヶ月。
三番隊にふらっと戻ってきた彼がもう一度隊長になれる筈もなく、彼は四席に落ち着いた。
イヅルが隊長ってのも何かおかしな話だと言うことで三番隊は隊長不在という形で存続している。
イヅルも隊長になるのは断固拒否していたし。
ギンが四席として戻って来たことで一つずつ席を下ろされたみんな。
給料が減ったから節約だと嬉しそうに語っていた。
20席だった子なんて席官ですらなくなったのになぜかそれを自慢気に語っていた。
それを見てやっぱり三番隊は市丸ギンの隊なんだなと嬉しく思う。
そんなこんなで新しく始まった三番隊。
ギンが戻ってきた日にイヅルが私に告白するというサプライズにより副隊長と副隊長補佐が付き合うという、ちょっとそれ大丈夫?な状態になった三番隊。
「湧ちゃ〜ん。どこ行ったん?」
彼が以前より輪をかけて甘えたさんになって戻ってくるとは思っていなかった。
今だってそうだ。
イヅルと補佐の私だけの隊主室にノックもせずに押しかけてきて私はどこだと問う。
『どうしました?』
隊主机の後ろにある本棚の陰から顔を出せば彼はソソソ、と寄ってきて私の背中に張り付いた。
「湧ちゃんおらんなったかと思うたわ。」
『私はどこにも行きませんよ。』
こんな人だったか、と思う。
確かに昔だって私にとっては周りが言うよりはずっとミステリアスではなかった。
信じられないかもしれないけれど三人で笑い転げることだってあった。
それでもやっぱり他の人よりはよっぽど不思議な捉え難い人で。
何を考えていらっしゃるか分からない、そう呟いたイヅルをふと思い出す。
でも私にしてみたら今の彼はイヅルより分かりやすい。
そしてきっとこれは私の勘違いではない。
今だって彼は全身で私にこう伝えてくる。
"なぁ、僕のことも愛して"
彼は変わったのだ。
藍染が封印され全てが終わり、彼が何から解放されたのか私はよく知らないけれど。
少なくとも三の字の書かれた隊長羽織りからは解放されたらしい。
頭の先からつま先まで、真っ黒なのを白で覆い隠して隊主羽織りを羽のように、ふわりふわりと行き場を無くした、誰も捕らえられない蝶のように漂っていた。
そんな"市丸隊長"は今や、死神のくせに似合わない真っ黒な死覇装のみを身に纏い、そしてなぜか私の背中に張り付く。
いや、張り付く何て可愛いものじゃない。
大きな体の力を全て抜いて背後から私に覆いかぶさる、という表現が正しい。
『ギン、重いです。』
そう、とんでもなく重いのだ。
「ええやん。」
『いや、良くないですから。』
彼の全体重を受けて前屈みになったままどうしようかと考える。
彼は何を望んでこうするのだろうか。
普段はあまり考えなかったことを考えてみた。
いつもはすぐにイヅルが助けてくれるのだが、彼は運悪く今はここにいないから。
必ずしも、行動にはそれを促す理由があるというわけではない。
訳もなく何かをしたくなることなんて誰だってある。
しかし何となくで、こうも毎日私の背中に張り付くだろうか。
単に甘えたい、ならどうして甘えたいのだろうか。
『ギンはどうして欲しいのですか?』
生憎私は聡明な頭脳を持ち合わせていないから、単刀直入に聞いてみた。
上手くはぐらかされて答えは返って来ないかと思ったのに、彼はすんなりこう答えた。
「僕がおるって分かるやろ?」
あぁ…なるほど。
存在するということ。
確かに実体がなくても"そこにある"ことは出来る。
しかし、存在することはその質量で持って示すのが一番分かりやすい。
彼はそれを伝えようとしているのか。
そんな真面目な思考は彼によって遮られる。
彼の指が死覇装越しに私の体を撫でる。
『どこ触ってるんですか。』
「ん?湧ちゃんの下乳。」
ぶっ飛ばしてやろうかと思っても彼の重すぎる体重に身動きが取れない。
『ちょ、やめなさい…!』
下からツンツンと突かれた自分の胸が揺れるのを見て私の顔はきっと真っ赤だ。
肩に乗せられた彼の顔を横目で盗み見ると楽しそうに笑っている。
『ギンっ…!!』
とその時、救世主が。
「湧、戻ったよ…って何してるの。」
「あ、イヅル。」
『イヅル!!』
無理矢理振り向いたのがいけなかった。
バランスを崩した私たちはそのまま床に倒れ込む。
ちなみに教えてあげよう。
私が下だ。
『重い…。』
床とギンに挟まれて私はぺしゃんこ。
ギンは全く動く気配がない。
「君たち何してるんだい。速く立ちなよ。」
「イヅル、女の子って柔らかいんやね。」
ギンが体を私に擦り付ける。
マーキングされてるみたいだ。
「まぁ僕たちに比べたら…って今まで知らなかったわけじゃないでしょう?」
『あの、どうでもいいので助けて下さい。』
二人してなぜか女の子の体の柔らかさについて語り始める。
何これ。
何でイヅルはわたしの彼氏なのに助けてくれないの。
「僕は二の腕が好きですけどね。」
「何ゆうてんの。そんなえっちな目で湧のこと見て。」
イヅルの顔がみるみる赤くなる。
図星なのか。
ギンが私の腕を掴んだまま立ち上がってイヅルから私を隠す様に抱きしめる。
「仕事中に自分の補佐のことをそんな目で見てる訳ないでしょう!?」
「イヅル、こんな可愛い湧ちゃんとおってえっちな気持ちなれへんの?もしかしてもうそれ、役立てへんの?」
「はぁ?!馬鹿なこと言わないで下さい!!だいたいさっきと言ってること真逆ですよ!!」
私の上でギャーギャーと止むことのない二人の口喧嘩も馬鹿らしくなってきて、私はギンの腕の中からスルリとぬけだした。
『はい、終了終了!お仕事始めますよ!』
「何や僕、久しぶりにサボりたなってきたわ。」
『は?え?!』
ギンはそういうと一瞬で窓枠まで行き、文字通りぴょーんと外へ飛び出して行った。
私たちが反応する暇もなく。
「油断してた…!湧、追いかけて来て!」
『はい!』
こうして久しぶりに私とギンの追いかけっこが始まった。
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