BLEACH中編

□嵐が縮めた俺らの距離
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【もしよゆうがあるなら家にきてほしい】





湧から伝令神機にやけに平仮名の多い簡潔すぎる連絡が入ったのは嵐の日の夕方だった。

その日は朝から土砂降りの大雨で、昼過ぎには豪雨と共に俺でもまともに歩けないほどの暴風が吹き始めた。

朽木隊長は昼前には女性隊士を全員帰し、俺たちも就業時間より早く解散となった。

隊長が緊急時には自分と恋次の二人だけで対応するとか言ってた…とにかくめちゃくちゃすげぇ大嵐だった。



そんな天候での湧からの連絡。


見た瞬間俺は隊長にもらったやけに立派な雨具を被って部屋を飛び出していた。

こんな天候にも関わらず、もっと仲の良い乱菊さんや吉良ではなく俺を呼んだことに胸騒ぎがした。

だいたい湧から連絡が来たのなんて何ヶ月ぶりのことか!

全く想像つかねぇけど何か起こったんだ。

瀞霊廷は誰もいなかった。

前から飛んでくる木の枝とか訳わかんねぇ紙とか色んなもんをなぎ払い、何とか九番隊地区の湧の部屋に辿り着いた。

「おい湧!湧!!来たぞ!!」

扉をガンガン叩いても吹き荒れる風の音に掻き消されてあいつの耳には届いていないのか反応がない。

「無理矢理開けるぞ!」

しっかり地面を踏ん張って両手で引き戸に渾身の力をかけると一瞬で鍵が吹っ飛んだ。

自分の怪力にちょっと呆然としながら部屋に入る。

「湧?!いねぇのか?!」

雨具を脱いで部屋を見渡す。

三席だから与えられた部屋はそこそこ大きくて玄関からじゃ全部は見渡せない。

「入るぞ…。」

濡れてボタボタの草履と足袋を脱ぎ捨てて部屋に上がり奥の寝室を開けると。

「おい、湧…だよな?どうした?」

こんもり膨れ上がった布団の横には伝令神機。

「お、おい…。捲るぞ…。」

そっと掛け布団を捲って俺は驚いた。

そこには体を丸めて荒い息をする湧がいた。


「湧?!」


取り敢えず顔を見ようと肩を触っただけで物凄い熱が出ているのが分かった。

薄っすらと目を開けた湧に顔を近づけて話しかける。

「もう大丈夫だからな。すぐ四番隊に運んでやる!」

全くこいつは、何が"余裕があったら"だ。
どう見てもそんな場合じゃねぇだろ!

そばに畳んであった薄い毛布で湧を包む。

まぁでも何でこいつが俺を呼んだのか分かったぜ。

この嵐の中湧を運ぶのには俺が最適だったんだ。

姫抱きも背負うのもこの嵐の中じゃ心もとなくて俺は小さい子どもにするように、湧を正面から抱き上げて腕と足を俺の首と腰に巻きつけた。

『れんじ…?』
「どうした?しんどいのか?」
『あこ…さんっ…。』
「え?あこ…阿近さんか?」
『あこん、さんの、ところ…。』

四番隊じゃなくて阿近さんのとこに連れてきゃいいのか?

必要なことを言い終えたからかグッタリしてほとんど意識のない湧に腹の底がゾクっと冷える思いがした。



湧ごと雨具を被って俺はまた外に出る。

「クソ…風キツくなってねぇか…?」

阿近さんのラボまで若干距離がある。

途中どこからか飛んできた瓦をよけきれずに顔面にぶち当たったのと一度大きな突風が吹いて思わずしゃがみ込んでしまった。

それ以外は特に事件もなく、腕の中の湧を守りきって俺は阿近さんのラボに辿り着いた。





「阿近さん!!阿近さん!!」

今度は鋼鉄のドアをぶち破る勢いでガンガン殴る。

煩かったのか相当お怒りの阿近さんがすぐに出てきて、俺は何か言われる前に湧をずいっと差し出した。

「阿近さん、湧が…!」

阿近さんは湧を見て一瞬ハッと息を呑んですぐに扉を大きく開けた。

「ソファ寝かせとけ。」

湧をゆっくりソファに降ろして巻きつけていた毛布を剥がすと、白い着流しに包まれた胸が大きく上下して苦しそうなのがよく分かる。


「阿近さんのとこ来たからな。もう大丈夫だからな。」


湧は女にしては背はある方だしそこら辺の男よりもよっぽど強いから、守ってやるというよりは守られることも多くて。

霊術院の頃は吉良なんかよりよっぽど男らしかった。

どんなにエゲツない練習も戦闘も泣き言を言っているのを俺は一回も見たことがない。

手合わせなんかすると女だからと躊躇した瞬間、手から木刀を弾き飛ばされてしまう。


つまり俺は湧の弱ってる姿何てこれっぽっちも見たことがなかった。

だから目の前の湧の姿がかなりショックだったようで。





「おい、阿散井?」


気づいたら俺は湧の手を握っていて、色々と持って戻って来た阿近さんに苦笑された。

「何でテメェがそんな顔してんだよ。」

阿近さんは手早く湧の着流しをかけたから俺は慌てて後ろを向く。

「この研究棟の奥に風呂があるから入ってこい。その間に湧の体吹いとくからよ。」
「使っていいんスか。」
「別に構わねぇよ。この雨と風ももうじき止むからそれまでここで待ってりゃいい。」

礼を言って出て行こうとした俺に阿近さんが言った。




「湧のことありがとな。お前のおかげで体も冷えてない。他の奴じゃこう上手くはいかなかっただろうな。」


振り向けば鬼が笑っていた。





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