BLEACH中編

□小噺集
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『美しい君へ』弓親夢







「あぁ、こんな所にいたんだね。」

美しい空気を吸おうと思って外へ出た。

何となく歩いていると、春にシロツメクサでいっぱいになる丘に辿り着いた。

ここでまさか湧に会えるとは。


安らかな顔で眠っている湧。

眠りを覚ます王子の様にその傍らに跪き、彼女をじっと観察する。



自分とよく似た藍色がかった濃紺の髪。

刀を持ち慣れた少し皮の固い手のひら。

色の薄い唇。

血色のいい頬。

白い喉。

適度に筋肉のついた思わず触りたくなる太もも。


その全てが、僕の魂を震わせるほど美しい。



初めて彼女を見たとき、ただ僕は淡々と呟いた。

美しい、と。


しかし今は彼女を見て美しいと言う時に、無表情ではいられない。



霊術院で見た彼女は無駄なものが何もない美しい容姿に剥き出しの強さが目に痛かった。


それが檜佐木の下で本当の強さを知り、挫折も恐怖も喜びも、色んなことを味わって。

それを持ち前の素直さで吸収して、人間的な本当の美しさを勝ち得た彼女。

彼女に愛を注いだ人は数知れない。

檜佐木だけではない。

阿近さんも、乱菊さんも、吉良くんも、恋次も、更木隊長や一角だって…もちろん僕もだよ。

たくさんの人に愛されて彼女はこんなにも美しくなった。

一歩間違えればただの殺戮マシーンにでもなっていたかもしれない。

そんな彼女を救ったのが間違いなく檜佐木だってことはちょっと癪に障るんだけどね。






僕は確かに彼女を美しいと思うけど、別に欲しいとは思わない。


けれど一つだけ望むことがある。












もし、彼女が戦いの中で最期を迎えることがあるとするならば、僕はそれを見届けたい。










彼女から目を離し、僕は隣に腰をおろした。

週末じゃないけど今日は家に帰ったらパックをしよう。


一番高級なトリートメントもしようかな。


爪のお手入れもして、唇パックも忘れずに。


僕だってまだまだ彼女に負けてられない。





あともう少し、ここにいよう。


彼女が目覚める時まで。




僕はそして、君におはようって言うんだ。




「湧、早く目を覚ましなよ。」








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