BLEACH中編

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どうしよう。

檜佐木さんから離れた私はさっきからずっと追いかけて来るよく知った霊圧に焦っていた。


しかし彼をこのまま瀞霊廷近くに引き寄せてしまえば今度こそ瀞霊廷が全壊してしまうかもしれない。





仕方なく大きな木の下で足を止めた。

まだ彼とは戦いたくなかったのに。




『乱鬼、どこにいるの。』




私は自分の斬魄刀に呼びかけた。

これまでに、彼に呼びかける時にこんなに負の感情に満ちていることはなかった。



ふと霊圧を感じて後ろを振り返ると。

細身の男が立っていた。

昨日は暗くてよく見えなかったけれど、漆黒の着流しの裏地が青い。
額には阿近さんのものよりもっとはっきりとした大きな二つの角。





間違いなく乱鬼だ。






「…湧。」


『…なに?』

近づいてくる乱鬼に距離を取る。

「俺のもんになれよ。」
『どうしてそんなこと言うのよ。』
「お前を他の男に触らせたくないからに決まってんだろ。」



その回答一つに乱鬼の狂気が見える。





『意味が分からないんだけど。』


ねぇ、これまでもそんなこと思ってたの。


「意味分かんねーならそれでいいよ。無理矢理そうすればいい。」


乱鬼の手から光線が出たのを危うく回避する。

「逃げても無駄だぜ。」

困った。
始解すら持ってないのに卍解出来る乱鬼に勝てるわけないじゃないか。

しかもどうやら私を捉えることが目的みたいだし。

あと卍解してることもバレたくない。

太い枝の上に降り立って辺りを伺おうとした時。



「縛道の六十二"百歩欄干"。」



しまったと思った時にはもういくつもの光の束が体を通過していた。

呼吸する暇もなく5mほど後ろにあった木の幹に体を縫い付けられる。

打ち付けられた背中が痛い。

『乱鬼…何するの!!』



「聞こえるか?」



乱鬼が私の背後を指差した。


「檜佐木が風死にやられている。」
『っ……。』
「お前もあんな弱い男に好かれて可哀想だな。」
『…力の強さだけが人の強さじゃない!!』
「生きるか死ぬかは力の強さが決める世界だろう?」

乱鬼の言葉に何も言い返せない。

「だいたい、阿近は分からねぇが檜佐木と平子はお前んこと狙ってんだよ。そんなことも分かってねーのか?」
『…何のことよ。』

確かに、平子隊長がどういう目で私を見ているか、考えたことがないわけじゃない。

でも檜佐木さんは…違うでしょ?


私の気持ちを他所に乱鬼は言葉を止めない。


「お前は俺と戦うことが1番の幸せなんじゃなかったのかよ。自分にピッタリな斬魄刀だって喜んでくれたじゃねーか。」

そうだよ、何で?
お互い何の不満もなかったよね?

「俺はお前のもんでお前は俺のもんだろ?」
『どうして、どうして今まで通りじゃダメなの?』


あなたは私の斬魄刀で私はあなたの主人でしょ?
それ以上でそれ以下でも何でもないはず。


「いいぜ、思い通りにならねぇなら無理矢理にでもしてみせる。」


乱鬼が近づいて来てどれだけ身をよじっても逃れることは出来ない。


「なぁ、俺のこと1番だって言ってくれよ。」


乱鬼に顔を掴まれて目線を合わせられる。

深い青が私を射抜く。

彼の瞳に映る青黒い私を見ていたら頭がフラフラしてきて。


私の一番は……


私の一番って?




乱鬼?



私の斬魄刀だから、私の魂だから?






「なぁ、俺が、一番、だろ?」
『私は…私は…。』


深い青い世界に、なぜか美しい金色が見えた気がしたその瞬間。













「そこまでだ。」









乱鬼の後ろに現れたその姿に私は心臓が止まりそうになった。







『阿近、さん…。』




阿近さんが至近距離で投げた何かに反応出来なかった乱鬼は轟音と共に消えた。

煙を吸って私は思わずむせる。


阿近さんは無言で私の体を木から引き剥がした。

そのまま私は彼の意外と広い背に背負われる。




「行くぞ。」




阿近さんは空を蹴った。






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