音大シリーズ

□空のプール
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(注)からーうぉーくの空に浮かぶプールの絵より




何もない島についたと思ったら、フランキーが水着になれというから仕方なく着替えた。能力者が水着になってどうするのかと思っていたら、魔法のように大きなプールを即席で作り上げていた。しかも気球のように空に浮いている。

唖然としてそれを見上げていると、キラキラした顔のサンジが私を抱き抱えた。

『ちょ、なにして…!』
「行くぞ!」

そう言って思いっきり空へと駆け上がっていった。

「ほら登れ登れェ!」

すでに乗っているフランキーが声を出す。

「お前ら!行くぞ!」
「何しやがる?!」
「いっくぞー!」

プールとは別の気球に乗ったルフィがローやウソップを地面から剥がしてプールに放り投げた。
ロビンはすでに自力でプールの裏側にあるソファのようなところに座っている。

「ほらゆうちゃん、座って。」

サンジが優しくプールのヘリに座らせてくれる。

「ここしっかり持ってるんだよ?危ないからね。」

そう言って私の頭を撫でて、サンジはナミを運びに地上へと戻っていった。

「おい、これはなんだ、いったい。」

足にとんと触れるあたたかさ。ルフィに投げ入れられたローが私のところまでなんとか這い寄ってきた。

『分かんない。フランキーは天才だよね。』

ただ浮かぶプールを作るだけではなく、見た目もかなり複雑で可愛くて、技術だけではなく芸術のセンスもあるのがすごい。

「たしかにすごいのはすごいが…。」

ローは訳がわからないというように首を振った。こんな時にも彼は帽子を被っているらしい。しかも律儀にちゃんとサンジくんに借りたらしい、水着まで履いてるし。

「おい、おれもそこに引き上げろ。」

水中のローが私の腕を掴んだ。

『重いよ。』

仕方なく彼の刺青だらけの褐色の体引っ張り上げる。ゾロほどの逞しさはないけど、彼だって筋肉むきむきですごく重い。私だって人型の時は普通の女の子なんだから。思いっきり引っ張り上げたら反動で軽く後ろにのけぞった。後ろはもちろん空中。

『わっ、』
「あぶねぇ。」

ローが右手でヘリを掴み、左腕で抱き締めるように私の背を支えた。顔が近くて恥ずかしい。目線を落としたら立派な胸板が目に入るし。

「おいそこ、能力者2人!落ちるなよ!」
「あぶねーぞー!」

フランキーとウソップのヤジが飛んでくる。ローは舌打ちをしながらゆっくりと私の横に座り直した。

「誰が落とすか。」
『ありがとうございます…。』

ローが続けて何かを言うが、ルフィが大はしゃぎする声でよく聞こえない。

『なんて?』

顔を近づけると、ローは下を指さした。

「地面が遠い。」

ローが覗き込むから私も下を覗き込む。うっかりひっくり返りそうで怖いから、ローの腕を掴むことにした。外野の声はうるさいが、こうしていると2人だけの空中デートのようだ。

「ゆうちゃんほら、危ないよ。」

プールの中でバーを開いていたサンジが私たちのところにやってきて、ローの腕を持つ私の手を掬い上げていった。

『あ、サンジ。』
「その水着、可愛いね。俺の髪の色みたい。」

黄色のヒラヒラした水着は確かに色合いはそうだけど、そんなこと言われたら恥ずかしくなってしまう。

「こんなに黄色が似合うなんて、ゆうちゃんはやっぱり俺のプリンセスだね。」

サンジはさらに歯の浮くようなセリフを紡いでいく。

「おい黒足屋。」

そこに唸るようなローの声が邪魔をした。

「男にも飲み物用意してんだろうな。」
「あぁ?用意してないわけねぇだろ。」

サンジは私とローの要望を聞いてプールの中のバーへと戻っていった。

「あんなやつのどこがいいんだ?」

ローは眉間に皺を寄せて聞いてきた。

『ちょっと、そんなこと聞かないでよ。だいたい別に誰も好きって言ってないし。』
「そうか?」

ローは首を傾げてフンっと意地悪く笑った。

「じゃああいつの前で俺と2人でも、もっと堂々としてみせろ。」

そう言ってローは自分の帽子を乱暴に私に被せた。やめてよこれじゃあ、ローのものみたいじゃん。

『サンジが黄色の水着だってやたらと執着するから妬いたんでしょ。』

意地悪をされるから、意地悪を返してみる。こんな大胆なこと普段は言わないんだから。

ローは驚いたのか作戦を考えたのか、少し黙ってから真面目な顔でこう言った。

「お前、落とすぞ。」
『やめてよ!』

そっちと違って空を飛ぶ能力なんてないんだから!

もう、と怒って帽子を彼に返すと、彼は納得行かなさそうな顔でそれを受け取った。私は彼に落とされないように、プールの中に入ることにした。きっともうすぐサンジが美味しいドリンクを持ってきてくれるんだ。


【画集Tigerより:空のプール】



俺に落ちてくれよ。

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