■小説

□不変の関係
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「何なんだよ、お前らは! もう、ヤだ! お前らなんか知らない!」
 イタリアの街中にあるアパートの一室に、ランボの嘆きが響いた。
 このアパートの一室はランボの部屋であるが、何故かそこには住人以外に二人の男の姿がある。
 一人は、ボンゴレ幹部の一人であり超一流ヒットマンであるリボーン。彼は怜悧なまでに端麗に整った容姿と、十一歳という年齢のせいで未だ発達途上であるが、それでも凛々しさを感じさせる体格、そんなリボーンはまさに美丈夫という言葉が相応しい男だった。
 そしてもう一人は、元イタリア海軍潜水奇襲部隊コムスビンにして裏マフィアランド現教官のコロネロである。彼の容姿もリボーンと同じく整ったもので、金髪と蒼い瞳が目を引く。しかも軍隊に所属していただけあって、その体格は大きく精悍なものだ。
 この二人は裏社会でも知らない者はいないほど有名で、二人が揃う姿を見た者は眼福と幸運を感じるだろう。
 だが、ランボはそんな二人を目の前にして怒り狂っていた。
 二人がアルコバレーノという稀な存在でもランボには関係無い。ランボからすれば、二人は性質の悪い苛めっ子以外の何者でもないのだ。
「うぅ……っ、どうして、お前らは……ぅ」
 ランボは嗚咽を堪え、目元に浮かぶ涙を拭いながら二人を睨む。
 この二人は突然ランボのアパートを訪れ、最初はランボも加えてゆったり紅茶の時間を楽しんでいたのである。だが、些細な事が切っ掛けで二人から集中ランボ苛めを受けてしまったのだ。
 二人の苛めが一度始まってしまえばもう終わりである。苛められっ子体質のランボは、楽しそうにランボを苛める二人に成す術は無かった。
「煩せぇぞ、アホ牛」
「喚くなコラ」
「酷いよ……ぅっ、お前らのせいなのに……っ」
 ランボだって好きで泣いている訳ではない。
 しかも自分より四歳年下の子供に苛められて泣くなんて、情けなさ過ぎると分かっているのだ。
 だが、今までの人生でこの二人に勝てた試しが無いのも事実である。
「もう嫌だ! お前らなんか知らないからな……!」
 ランボは一際大きな声でそれだけを言うと、その場に蹲るようにしゃがみこんだ。
 そして身体を小さくするように三角座りをし、両膝に顔を埋めて「うぅ……っ、う……っ」と嗚咽を漏らし始めた。
 どうやらリボーンとコロネロに文句を言っても無駄だと悟り、一人で泣いて過ごす事に決めたようである。
 こうして一人で泣き始めたランボ。
 そしてそれを完全に無視し、優雅に紅茶を飲むリボーン。
 コロネロはリボーンと同じく無視して紅茶を飲んでいたが、不意にランボに視線を向けた。
 部屋にはランボの「うぅ……っ」という嗚咽だけが響いている。
 コロネロはランボと出会ってから十年間、何度もこの嗚咽を耳にしてきた。ランボは幼い頃から泣き虫で、泣くのが趣味ではないかと思うほどよく泣くのだ。
 本来なら泣き声などウザイだけだが、ランボの泣き声は聞き慣れてしまったくらいである。
 コロネロはランボの嗚咽に揺れる背中を見つめる。
 ランボは幼い頃から年齢の割りに体格は小さな方であったが、十五歳の今になっても平均より体格が細い方である。そんなランボは、普段大人びた雰囲気を気取る事もあるが、それでも泣き顔は幼い頃と変わらないように思った。
 コロネロとしては、これが自分やリボーンよりも四歳年上など信じられない程だ。
「おい、何見てる」
 不意に、リボーンの低い声がコロネロの思考を遮った。
 コロネロはリボーンに視線を向け、思わず苦笑する。
 今のリボーンの眼差しに怒気が含まれているのは気のせいじゃないだろう。
 先ほど、コロネロはランボの泣き顔は幼い頃と変わらないと思った。その性格も、年齢より小柄の体格も、牛柄を好むそのセンスも。そして何より、心根さえも揺ぎ無い。
 だが、それはランボだけではなかった。
 リボーンはあの時から大きく成長し変わったように見えるが、何も変わっていないのだ。
 確かにリボーンの顔立ちや体格は発達途上ながらも大人びたものに変わり、性格は殺し屋としての磨きがかかった。
 しかしランボと同様に心根だけは変わっていない。
 コロネロは覚えている。
 ランボに初めて出会った十年前の事を。
 今でも鮮明に覚えている。
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