■小説

□誰にも言えない。
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 認めたくない。
 信じたくない。
 自分自身を激しく疑う。
 どうして自分が! と自身を問い詰めたくなる。
 どうしてアホ牛をこの俺が!? と自身を締め上げたくなる。
 それ程に信じたくない事実が判明してしまった。
 その事実とは、超一流ヒットマンと名高いこの自分が、格下でアホ牛のアイツを好きだということ。
 そう、リボーンは自分がランボを特別に想っている事に気付いてしまったのだ。


 しかしその想いを言葉にする事は超一流としてのプライドが許さない。
 だから、この想いは誰にも言えない。



誰にも言えない。



 ボンゴレ屋敷にある綱吉の執務室。
 リボーンはこの麗らかな昼下がりの時間を、綱吉とともにティータイムをして楽しんでいた。
 だが、そんな穏やかな昼下がりは突如崩されるのだ。
 不意に、廊下の方からバタバタという慌ただしい足音が響いたかと思うと、執務室の扉がバタンッと開き、ボヴィーノファミリーのヒットマンであるランボが息せき切らせて現れた。
「十代目、聞いてください!」
 ランボは、執務室に入るなり開口一番そう言った。
 本来ならボンゴレ十代目に対する挨拶などが必要なのだが、今のランボはそれを忘れるほどに興奮しているようである。
 ランボは翡翠色の瞳をキラキラさせており、にこにことした子供のような笑みを浮かべて綱吉に駆け寄ったのだ。
 今の執務室にはリボーンの姿もあり、普段のランボなら真っ直ぐにリボーンに突っかかっていくのだが、何故かランボはリボーンに見向きもしなかった。否、見向きもしないのではなく、存在を強く意識しながらも敢えて綱吉だけを見ていたのだ。
 そんなランボの様子を綱吉とリボーンは内心で不思議に思いながらも、綱吉は「久しぶりだね、ランボ」と優しくランボを迎える。
「どうしたの? ご機嫌さんみたいだけど、何かあった?」
 綱吉が穏やかな笑みを浮かべてそう訊けば、ランボは照れたようにエヘヘと笑う。
 そして照れたかと思うと、今度は「実はそうなんですよ〜」とモジモジともったいぶり出す。
 それはとてもウザイ姿であり、それを側で見ていたリボーンは内心苛立ちを覚える程であるが、ランボを相手にしている綱吉は違った。
 綱吉は「そうなんだ。いったいなんだろ〜」と機嫌良くランボの相手をしている。
 そう、綱吉はランボに甘かった。それは十年間という長い間、保育係としてランボの面倒を見ているうちに、まるで年の離れた弟のような感じを覚え始めたからだ。
 しかもランボ自身も元々甘え上手な性格をしており、十年経った今では容姿の方も甘え上手な甘ったれたものになり、その顔に笑顔を向けられると庇護欲を感じられずにいられない。
「聞いてくれますか? 十代目」
「うん。ランボの事、聞かせてほしいな」
 綱吉の甘やかすような言葉に、ランボはまたしてもエヘヘと笑う。
 そして。


「はい! オレもとうとうマフィアなんです!」
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