■小説

□ハッピーキャンディー(前編)
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 5月28日 17:00
「少し早過ぎたかも……」
 ランボは目の前の光景に、苦笑混じりに呟いた。
 目の前のダイニングテーブルには、たくさんの料理が並べられている。
 夕食の時間にはまだ早いが今日は特別な日の為、ランボは待ちきれずに早い時間から準備を始めたのだ。
 今夜のメニューは、オリーブペーストのパスタを始め、食欲をそそる焦げ目がついたマッシュルームグラタン、手作りソースが自慢のローストビーフ、新鮮なホタテを使った海鮮サラダなど、普段よりも種類が多めだった。どの料理も良い匂いを漂わせ、とても美味しそうな出来になっている。
 これは全てランボの手作りだった。元々ランボは料理が得意な方であったが、今夜の夕食は特に手の込んだ特別なものを作ったのだ。
 しかも特別なのは料理だけでなく、取って置きのワインまで用意し、冷蔵庫の中には料理やワイン以上に大切なものが置かれていた。
 その大切なものとはホール型のケーキである。
 だが、これは只のケーキではない。ケーキの上にはプレートが飾られており、そこには『ランボくんお誕生日おめでとう』と描かれていた。
 そう、今日はランボの16歳の誕生日なのだ。
 ランボはテーブルに並んでいる食事に満足気に頷くと、ふと棚の方に視線を向ける。
 その棚には透明なガラスで造られた小瓶が置いてあり、中には色とりどりの飴玉が入っている。
 飴玉の数は15個。
 ランボは飴玉の入った瓶を手に取ると、懐かしげに目を細めた。
 幼い頃からランボは飴玉が大好きだが、自分の誕生日には特別な意味を持つのだ。
 ランボはそれを思うと、瓶の中の飴玉を覗き込む。
 大好きな飴玉と自分の誕生日。10年前のあの日から、それはランボの中で特別な意味を持つ。
 ランボは10年前の特別な日に思いを馳せ、15個の飴玉が入った瓶を大事そうに両手で包み込んだ。
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