■連載小説「トリプル・トラブル」
□休暇の過ごし方(中編)
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ランボは自分のアパートからボンゴレ屋敷に戻ると、こそこそとリボーンの部屋に向かった。
気配を消し、忍び足でリボーンの部屋の前まで来たランボは大きく深呼吸する。
そして。
「リボーン、覚悟しろ!」
ランボは勇ましい雄叫びとともに、リボーンの部屋に突撃した。
そんなランボの手には銃が握られており、部屋に入った瞬間に引き金を引こうとする。
だがランボが引き金を引く前に、部屋には一発の銃声が響いた。
響いた銃声は部屋に居たリボーンが放ったもので、ランボはそれに「うわ……っ」と短い悲鳴を上げて顔を青褪めさせる。
リボーンの銃弾は、ランボの顔のすれすれを掠め通ったのだ。
ランボの背後の壁には無残な銃痕が残り、ランボはその実弾の威力に息を飲む。もし後1センチでもずれていたなら、あの壁にめり込んだ銃弾は間違いなく自分を襲っていただろう。
こうしたランボの青褪めた様子に、ソファに座って新聞を読んでいたリボーンが顔を上げた。
リボーンは新聞を広げているが、片手にはランボを襲った銃が握られている。
「もう俺を狙うのは諦めたのかと思ってたぞ」
リボーンは懐に銃をしまいながら、口元にニヤリとした笑みを刻んでそう言った。
確かに最近の襲撃は子ランボばかりが行なっており、ランボはそれを慌てて止めにいくばかりだったのである。子ランボは子リボーンだけでなく、リボーンまで狙ってしまうので目が離せなかったのだ。
だが、ランボとてリボーンの暗殺を諦めた訳ではない。これは幼い頃からの習慣であり、そう簡単に止められる筈がないのである。
「そんな訳ないだろ? オレはいつだってリボーンを狙ってるよ!」
ランボがはっきりとそう言い切ると、リボーンは「そうか」と答えて楽しげな表情になった。
ランボはそんなリボーンの表情を目にし、もしかして……とある事に気が付いた。
そのある事とは、リボーンの機嫌である。
今のリボーンの反応を見ていると、もしかして今日はとても機嫌が良いのではないかと思えたのだ。
リボーンの機嫌が悪い時にランボが襲撃を行なえば、リボーンは問答無用で倍以上の反撃をし、後はどんなにランボが泣いても話しかけても無視をするのが常だった。
だが、今日のリボーンは自分から話しかけてくれた。しかも楽しげな表情まで見せてくれた。これはリボーンの機嫌が良い証拠である。
ランボはそれに気が付くと、なんだかとても嬉しくなってリボーンの側に駆け寄った。そしてリボーンの隣に座り、その顔を覗き込む。
「今日はリボーンも休暇なんでしょ?」
ランボがそう訊けば、リボーンは「まあな」と短く答えた。
たったそれだけの返事だが、ランボはそれだけで嬉しくなってしまう。
どうして自分がこんなに嬉しいと思ってしまうのか分からないが、それでも嬉しいという気持ちが溢れてくるのだ。
「だったらさ、今からお昼でも食べに行こうよ。この前、美味しい店を見つけたんだよね」
ランボはリボーンの機嫌の良さに調子に乗り、期待を籠めて外食の提案をした。
しかし、その提案にリボーンは無言のままで新聞を折りたたみ、ボルサリーノを目深に被って立ち上がる。
そして。
「せっかくの休暇だが暇な訳じゃねぇ」
そして、リボーンはそれだけを言うとランボを残して部屋から出て行ってしまった。
一人残されたランボは、呆然とした面持ちでリボーンを見送った。
今日のリボーンは機嫌が良いと思っていたのに、さっさと出て行ってしまった。しかもリボーンは休暇だと言っていたというのに。
それは何だか自分が側にいる事を嫌がっていたようにも思え、ランボは唇を強く噛み締める。
休暇だというのに暇じゃないという事は、愛人の所にでも行ったのだろうか。
ランボはそれを思うと、何だかもやもやしたものが心の中にこみ上げ、それはランボをとても嫌な気持ちにさせる。
つい先程まではとても嬉しい気持ちが溢れていたのに、今はその気持ちは完全に消えてしまった。
「……リボーンなんか、愛人とやり過ぎて不能になっちゃえ……っ」
ランボの小さな呟き。
その声色は悔しそうなものであったが、微かに寂しそうな色が含まれている。
だが、ランボはその隠された寂しい色に気付かぬ振りをし、「リボーンの馬鹿」と呟いたのだった。