■連載小説「トリプル・トラブル」

□トリプルバースデー (中編)
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 男の怒号と女性の叫びが入り混じり、騒然とする銀行内。
 現在、二人のランボが来店した銀行は強盗に襲われていた。
 銀行内を一瞬にして支配してしまった強盗は五人。男達は覆面を被り、それぞれライフルを所持している。
「ギャーギャー騒ぐんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」
 男が怒鳴ると、騒然としていた銀行内がシンッと静まり返った。
 銀行内に残っているのは、男女を含めた数十人の銀行員と数人の客である。残された者達は一様に青褪めた表情をし、中には泣き出してしまう者までいた。
 その中でランボは緊張に表情を強張らせ、自分の足にしがみつく子ランボに視線を向ける。
「子ランボ、オレの側から離れないでね」
「……うん。オレっち、はなれないもん……っ」
 子ランボは大きな瞳に涙を溜め、ランボにしがみつく手に力を籠めた。
 今の子ランボはあまりの恐怖と驚きに泣く事も出来ず、青褪めた表情でガタガタと震えている。
 ランボは、そんな子ランボを抱き上げると、小さな身体を守るように抱き締めた。
 だが、こうした子ランボを守ろうとするランボの決意は、強盗達の無情な要求によって打ち消されようとする。
「男はいらねぇ! 女子供を残して今直ぐ此処から出ろ!」
 そう、強盗達は人質として女性や子供だけを選んだのだ。
 しかしこれは予想内の人質選択といえるものだった。強盗達にとって、力有る成人男性を人質にするよりも、か弱い女性や子供を人質にした方が安全なのだ。何より、女性や子供を盾にすれば外からの攻撃が慎重になる。
「男はさっさと出てけ!」
 ライフルを構えて強盗が怒鳴れば、人質だった男達は怯えながらも出口に向かって駆け出していく。その光景に、残された女性客や女性従業員は絶望に泣き崩れるしかなかった。
 ランボも、子ランボを抱き締めたまま解放されていく男達を見送っていたが、不意に、強盗の一人がランボを視界に留める。
「おい、何をしている! お前もガキを置いてさっさと出ろ!」
 突然怒鳴られ、ランボはビクリと肩を揺らす。
 しかしランボは怯えながらも、気丈に強盗の男を睨みつけた。
「ちょっと待ってよ! こんな小さな子供を一人にはできない!」
 子ランボを一人にするくらいなら自分も残った方がいい。本当は子ランボだけでも解放してほしいが、それが望めない事は最初から分かっていた。
 銀行内を見渡せば、此処にいる子供は子ランボだけである。そんな貴重な子供の人質を強盗達が見逃してくれる筈がないのだ。
 それならばせめて子ランボと離れていたくない。
 ランボは男を睨んだまま、「オレも残せ!」と強く子ランボを抱き締めた。
 だが、男はそんなランボの言い分など一笑し、「心配するな。そのガキは丁重に扱ってやるよ」と嘲るような口調で言ったのだ。
 そして男の手が子ランボの身体を鷲掴み、「こっちへ来い!」と乱暴に二人を引き剥がそうとする。
 しかし。
「や、やだー! やだやだ! オレっちを一人にしちゃやだ〜!」
 しかし引き剥がそうとした瞬間、響いたのは子ランボの大音響。
 子ランボは「うわあああぁぁん!」と大声で泣き喚き、ランボにピタリとしがみついて離れなかったのだ。
 しかも子ランボの泣き声は凄まじく、銀行内にいた者達は思わず耳を塞いでしまう。
「何だこのガキは! 黙れ、煩せぇぞ!」
 男は泣き声に辟易して怒鳴るが、子ランボは恐怖を煽られてますます音量を上げてしまう。
 今の子ランボは、只でさえ怯えていた状況だったのにランボと離されそうになり、恐怖がピークに達してしまったのだ。
「オレが一緒にいれば泣き止むけど、どうする?」
 ランボは子ランボを抱き締めたまま挑戦的な口調で言い放つ。
 この言葉は、取り引きに近いものだった。
 男達が簡単に子ランボを解放するとは思えない。だが、だからといって容易に殺す事もしないだろう。子供というのは存在だけで価値あるものとされ、人質として申し分ないのだ。
 ランボの言葉に、男は悔しげに舌打ちする。
 子ランボという人質は手放したくないが、子ランボの泣き声は凄まじすぎるのだ。男はそれを天秤にかけ、妥協しなければならないという答えに辿り着く。
 男は忌々しげにランボを睨むと、「妙な真似をするんじゃねぇぞ!」と吐き捨てたのだった。


 こうして銀行内には五人の銀行強盗が立て篭もり、ランボと子ランボを含めた十数人が人質として盾にされたのだった。
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