D66×K66

□風花
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浅春のまだ肌寒い日。
日向家の屋根の上でケロロくんを見つけた。
ずっと一方向を見つめたままなので、気になり視線の方角を追う。
日向家の数軒先。その家の玄関先には「忌中」の紙が張られており、家人がせわしなく出入りをしていた。やがて霊柩車と数台の車が、おそらく斎場へと出発する。
ケロロくんは何を思ったのか、その車列を追いかけていく。

――その後を追った。

しめやかに執り行われたらしい葬儀の後、見守る参列者、深々とお辞儀をする故人の親族。
ケロロくんは何を想い、その様子を見つめているのだろう。

そして時を置き、遺体は荼毘に付され、丹霞の空に野辺の煙が流れる。

じっと座ったままだったケロロくんが立ち上がる。

ようやく人の気配を感じたのか、ゆっくりと振り返る。
驚くというより、酷く戸惑った表情。

…僕は…見てはいけないものを見てしまったのだろうか。

ケロロくんの大きな黒い瞳からは幾筋もの涙が流れていた。
慌ててゴシゴシと涙を拭き、ばつが悪いというような顔をしている。

「いつから居たんだよ…って、ここに居るってことは、全部見ていた…でありますか…」

…ごめんね。

心の中で詫びた。

黙ってケロロくんの隣に腰を降ろす。
僕が何も問わないものだから、沈黙に堪え兼ねてケロロくんは喋りだした。

「地球人のお別れの儀式ってあんな感じなんだなぁ…って思いながら見ていたであります」

感情を押し殺しながら、淡々と語る君。
まるで溢れそうな想いを、僕に悟られまいとするように。

でも僕にはもうわかってしまった。
君はこの星で心が通じあえた親しき方々との永遠の別れの日を想像して、その涙を流していたのだと。

「短いよねぇ…さっきの地球人、まだ70歳だってさ。この星の人間て、あっという間に死んじゃうよね〜」

無理に笑おうとして、頬が不自然に歪む。

「我輩達が侵略に成功した暁には全地球人の寿命が100倍になるようにしてさぁ〜感謝されるかなぁ〜ゲロゲロゲロ…」

その答えを既に君は知ってしまっているから、僕は何も言わない。
君は俯き、肩を震わせる。

「何とか言えよ…ドロロ…我輩のこと、馬鹿だって言えばいいじゃん…」

そっとケロロくんを抱き寄せる。
温かい雫が、胸元を濡らしていく。

「たしかにいつかお別れせねばならない時は来るでござるよ。冬樹殿や夏美殿…ケロロくんが大切に想うこの星の方々と」

ケロン星へ帰って会えなくなるより、彼等が君よりずっと早くに寿命を終えてしまう方が何倍も辛くなったんだね。
生きてさえいれば…また巡り逢える可能性は僅かでもある。
遠くから幸せを願う事も出来る。
されども死は全てを分かつ。
僕達と比べものにならない程に寿命の違う彼等と心を通わせてしまった、それが僕達の宿命。

「我輩、ケロン星にいた頃は、こんな気持ちは持たなかったのに…全く情けない話であります…」

眉間に皺を寄せ、厳しい表情を作る。
まるで今の自分を戒めるように。

でもね…ケロロくん。
少し君が羨ましくもあるよ。

拙者も小雪殿も特異な生き方を歩んできたからだろうか。人の世は刹那であり、色即是空、空即是色…そんなものだとどこかで割り切っている。

いつもより小さく見える君が今腕の中にいる。
君を抱き寄せる力を少しだけ強めた。

「ケロロくん…拙者はその感情を情けないとは思わぬでござる」

ピクッと体を震わせ見上げた濡れた瞳は、非難の色を含んでいた。
その非難は生ぬるい言葉を吐く僕へなのか、君自身へなのか。

「こんな時に同調してなんか…欲しくないであります」

そう言い僕の手を振り払った。
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