とある夏の昼下がり。 小脇に出来上がったばかりの試作品を抱え、クルルはラボから直行で隊長部屋を訪ねた。 「おい、隊長〜頼まれてた例の…っと…また昼寝かよ」 また、と指摘を受けた当人はチェアに凭れかかり幸せそうに寝入っていた。 入って来た人の気配に気付くことなく、見るからに熟睡中の様子で、お腹を掻く為に時折指が動くだけである。ポリポリという気の抜けた音とスースーという呑気な寝息に、思わずヒクッと眉が動いた。 「ケロン軍本部には見せられねぇなァ…」 くくくっ…と、声を殺して笑う。起こさないよう声を殺すあたり、自分も知らず知らずの内に、情が移っているということか。 顔を近くまで寄せても、やはり起きる風でもなく、だらしない半開きの口から今にも伝い落ちそうな涎に、さしものクルルも苦笑した。 クーラーがやや低めに設定されているのか、室内はひんやりしている。 「…寝冷えすんなよ」 膝を折り試作品をそっと床に降ろし、傍を離れようとしたその時、グゴゴッと鼾をかきながらチェアの上で寝返りをうったケロロの腕が、クルルの肩にぱさりと乗った。 顔を顰め、腕を離そうとすると逆に引き寄せるように絡んできた。 「おいおい、俺は抱き枕じゃないんだぜェ〜」 実は起きているんじゃないかと一瞬疑ったほど、腕の力は緩まなかった。 ムニャムニャと口元が動き、瞼は閉じたまま、ヘラ〜と眉尻が下がる。 どうやら楽しい夢見の真っ最中であるらしい。 「何なんだよ、アンタは…」 しょうがねぇな、と呟きながら、クルルは小一時間だけ、抱き枕になってやるかと決めこんだ。 無防備なその顔に向かって、ニヤリと笑う。 「勿論、後で褒美をくれるよな?隊長」 そうしてクルルは胡座を組んで座り、チェアに両肘を乗せて体勢を安定させると、午後のひとときの気まぐれに、ケロロ専用抱き枕に徹したのだった。 end |