煩い足音だ。 こんな無遠慮にヅカヅカと、自分の領域に入ってくるのは一人だけ。 「クルル〜助けて〜」 ああやっぱりな、と。 クルルは面倒臭そうに扉を開けた。 何事かと思えば、フライングボードが故障したのだと言う。 「あとでな」 「すぐ来て〜」 日向家の裏まですぐに来て欲しいのだと。 「この炎天下にか?イヤなこった」 「そこを何とか〜ねっねっ?」 そうやって頼めば折れると思われているのが、気に入らない。 本来親切心もなければ、律義でもない。 それなのに、頼めば折れると思われて。 「しょうがねぇ…今回だけだぜェ」 工具箱を手に取り、いかにも面倒臭そうに立ち上がる。 結局こうして引き受けてしまうのだ。 全くイカれてるぜと舌打ちしながら。 炎天下の中で、汗を流しながら黙々と作業をする。 暑くてますます頭がイカれそうだ。 「クルル〜助かるであります」 体いっぱいに喜びを表現する。 ああ。イカれてるな。 その素直な喜び様に。 汗がボタボタと流れ、思考が停止しそうな暑さの中で。 「クルル〜ジュース持ってきたであります」 手にしたジュースを見て、頭の中でぐるぐると。 「氷をくれよ」 「へ?」 「暑くてな、ほら」 そうやって口を開ければ、何を求めているのかケロロも悟るのだ。 こぷっと口に氷を含み口移しで渡せば、カランと氷がクルルの口腔に転がりこんだ。 「冷てェな…」 そう言って含まれた氷がクルルの口内で小さくなっていく。 溶ける度にもう一個もう一個と繰り返し、互いの唇までがすっかり冷えきってしまった頃、今度は唇を温めるかのように、貪り合うのだ。 とうに、修理は終わっていて。 太陽も建物の陰に陰り、暑さも和らいだ頃、目的を逸脱した激しい口付けだけが、繰り返されていた。 ああ。イカれてるのさ。 今もこうして。 別の熱を含んだ体を求め合うように。 end |