銀河系は遠い。 ガルル中尉はいつもそう感じていた。 距離の問題ではない、心の問題だ。 愛しい恋人は遠く離れた前線基地任務であり、自身は本部からの命令であらゆる星域を往来している。 逢いたくてもなかなか逢えるものではない。 ただそれを言い訳にするのを好む性格ではなかった。 逢える時間がなければ作ればいい、克服は即ち本人の努力次第なのだと。 ただ持ち前の気鋭さで押し切ってしまうには、一つ重大な問題が生じていた。 努力だけではどうしようもない、悩みの種が。 恋人の心変わり―― まだそうだと決定した訳ではないが、最近どうにも様子がおかしいのだ。 メールもコールも素っ気無いというか、態度が硬い。 元来、気分屋で甘ったれな性分の恋人は、感情の変化が分かり易い。 何か違う、どこかがおかしい。 それは当たって欲しくはない、百戦錬磨の直感ともいうべきものだった。 彼の恋人はいい加減ではあるが、浮気をしたり二股をかけるほど、あざとい性格ではない。 ならば疑うべくは、本気の心変わりということか。 ――考えたくはない。 それでも、このまま見過ごすのが良策ではないのは確かだ。 もし仮にそれが事実だとした場合、その相手として最も疑わしいのは誰か。 妥当な線を手繰るならば、彼の部隊隊員の誰かを考えるべきであろう。 ではその四名のうちの誰か。 独自調査の内偵書に目を通す。 まず実弟ギロロ伍長。 これは白だ。何故なら彼には地球で見つけた特別な物がある。 あの不器用な弟にそんな事が出来る筈もない。 次にタママ二等兵。 どうやら公然とケロロへの恋慕を語っているとのこと。 それならタママも白だろう。公然という時点でそれは憧れの域を出ないであろうし、深い関係のカムフラージュとは考えにくい。 次からが問題だ。 クルル曹長とドロロ兵長。この両名は限りなく黒に近い灰色だ。 まずドロロ兵長。 幼少時よりケロロに振り回されるが、その人生における重要性は甚だしいと記してある。 同居の地球人女性とは家族同然の付き合いだというが、そこまで地球に馴染む手腕は侮れない。何よりアサシントップの出。正攻法以外の使い手と見るのが無難だ。 最後にクルル曹長。 小隊中で最も危険な男。恋愛やセックスに一見無頓着に見えるタイプほど危ないのだ。 ケロロが実際にそうだった。あの子供のように無邪気な彼が、実は褥でどれだけ淫らに乱れるかなど、知る人間以外想像もつかないだろう。 人は見掛けによらない。ガルルはそれを嫌というほど知っていた。 ざっと検分した上でもこの二名は極めて怪しい。 手腕に優れた男と、頭の切れる男。 そう考えれば何という危険な場所に、恋人を放置してきたのかと思う。 戦場で掻くような嫌な汗が滲んできた。 今すぐにでも地球へ行きたい。任務も何も放り出しその衝動に任せて。 そしてそれが出来ない己に苦笑した。 それならば、と最良の方法を考える。 休暇を利用するのは手っ取り早いが得策ではない。 自分とケロロの関係が露見すれば、困るのは恋人自身だからだ。 ならば任務を兼ねるしかない。 ガルルは乱れる心を抑えて、それとなく上層部へ根回しをすることにした。 |