マジですか!? それがケロロの第一声。 だってそうでしょ?そう思って当然でしょ? だってだってガルルってば「近々親父に紹介するからそのつもりで」なんて真顔で言うんだから。 『障壁』 「それ本気で言ってんの?」 二人分の熱でホッカホカのベッドの中、ケロロは顔だけを横に向けた。 身体はうつ伏せのままだ。 腰にはまるっきり力が入らない。 久々の三回戦は彼から全ての体力を奪い去っていた。 「当然だ。私がそんな冗談を言うと思うかね?」 こちらは余裕綽々のガルル。 ケロロの中に三回ほど熱い迸りを放った後も、呼吸一つ乱さずに悠然と構えている。 「思わないけどさ…どちらかといえば冗談であって欲しいであります」 真顔で冗談を言うタイプには見えないが、本気だなんてどう受け止めればいい? 親父に紹介するって、アンタ、我輩たちどう考えても双方の親に認められるような関係じゃないことぐらい… 「分かっているよ」 何を? 「心配しなくともいい」 するよ! 「私とてよく考えて…」 「考えてないであります!」 怒鳴れば中までキンキンと響いた。 痛みに歪んだ顔を、ガルルの掌が包み込む。 「もうそろそろお前と一緒になりたいよ、ケロロ」 真顔で口説き文句。 ヤメテ… ケロロは自分の顔が「茹でたギロロ」みたいな色になっているなと想像出来た。 「だって我輩たち、男同士だし…」 「だから?」 「…認めて貰えるワケないし…」 「何故?」 「…結婚出来ないし」 「出来るさ」 ケロロは伏せていた目をガルルに向けた。 ガルルの顔は、まるで一人で敵戦闘艇を撃沈したような誇らしげな顔だった。 「どうやって?」 馬鹿らしいと思いつつも、その顔が余りに自信に満ち満ちていたので問い返す。 「ケロン星の法律ごと変えてしまえばいい」 ニヤリと微笑んで、その紫の男は瞳を妖しく輝かせた。 「…どうやって?」 今度は恐る恐る、この男の考えを確認する。 「私が軍の頂点に立てば、法律の一つや二つ変える事など容易いことだ」 ケロロは腰の痛みも忘れ、驚きのあまり跳ねた。 跳ねた勢いでベッドから転がり落ちそうになるのを、ガルルが抱きとめる。 「ガ、ガルル中尉!な、な、なんちゅー恐ろしい事を!」 「そうでもないさ、そのための準備は着々と進めている」 ええええええッッッ!! 「私たちは十分想い合っている。相性も抜群だ。ケロン星の法律が結婚の障壁となっているなら、それごと変えるしかあるまい?」 まるでそれが正当的な論理であるかのように、ガルルはとくとくと説いた。 手筈は整っている。 近日中にガルル小隊は軍本部を急襲する、そして上層部を抑えそのまま最高権力者となり、ケロン星を支配する。 「ぐ、軍事クーデター!」 しっ、とガルルは指をケロロの唇にあてがった。 「そんな大きな声を出すもんじゃない」 「ガ、ガ、ガ…」 「どうした?この部屋に蛾でも飛んでいるのかね?」 スチャ。 亜空間から取り出した愛用スナイパー銃を天井に向ける。 「ひーっ!!」 ケロロは慄いた。 ガルル中尉がこんな物騒な人だったとは! 軍事クーデターなんて、冗談じゃない! ケロン軍上層部の壁が、そんなやわな筈がない。 いやいやいや、そういう問題ではなく、そんな恐ろしい企てを、自分との結婚の為に計画するなんて尋常じゃない!マトモじゃない! 「…どうした?勿論、お前も賛成してくれるだろうな、ケロロ。さあ、もう計画を話した以上、成功するまでずっとここにとどまって貰うぞ。そしてミッション・コンプリートの暁には、親父に挨拶をしてくれるな?」 ゲロォ! このままでは我輩まで反乱分子であります! ま、巻き込まれる! いや、巻き込まれた! タスケテ! タスケテーッ!! 「…起きなさい、ケロロ」 パチッと目を開ければ、心配そうに顔を覗きこむガルルの顔が見えた。 「あ、あれ?我輩??」 ケロロは何度も瞬きをした後、ガルルの顔をじーっと見つめた。 「ゲロッ!クーデター!!」 怯えたように叫ぶケロロに、ガルルは怪訝な顔をした。 「物騒な夢でも見たのか?お前がうなされていたから起こしてしまったが…判断は間違っていなかったようだな」 そっと胸に抱き寄せ、慰めるように背中を撫でる。 温かい腕の中で、ケロロは夢の全容を思い出していた。 怖い夢だったであります。 現実のガルルはこんなに優しいのに、我輩ったら…。 どうしてあんな夢を見たのだろうか。 昨夜は久々の逢瀬で、心も身体も大満足で。 満ち足りている、現状に何も不満はないハズ。 でも…怖い夢だったけど、そこまで我輩と一緒になりたいと思ってくれるのは、ちょっと嬉しかったりして…。 我輩も相当イカレてるでありますな。 エヘへ、と笑いが零れれば、ガルルがその唇にキスをした。 「落ち着いたようだな、心配したよ、ケロロ」 自分だけに向けられる優しい笑み。 ケロロは胸が熱くなる。 たとえ結婚なんて出来なくても、たとえ親に認めて貰えなくても、お互いがこれほど想い合っていればそれで十分だ。 法律だろうが、性別だろうが、二人の間に壁なんて作れやしない。 我輩は、十分幸せであります。 優しいキスを存分に受け、ケロロは甘く吐息を漏らし顔を上げた。 金の目を細め、ガルルが薄く微笑んだ。 自信に満ち溢れた、勝者の表情を浮かべて。 そして、囁く。 「喜べ、ケロロ。お前が寝ている間に部下達から報告が入ったぞ。無事、軍部は掌握できた。計画通りだ。これで今日から私がケロン星の最高権力者だ」 えっ? 「もう私たちの間に立ち塞がるものはない。明日、親父のところへ行こう、ケロロ」 誇らしげな笑み、逞しい腕。 これは悪夢の続きか。 それとも? end お題提供:李姫さま |