GLL×K66

□深海ニ眠ル★★★
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照明を最小限に落とした部屋で、ガルルはモニターを見つめていた。
映し出されているのは宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長・ケロロ軍曹に関する資料。誕生から今日に至るまで軍が掌握している彼に関するあらゆるデータがトップシークレット内のデータバンクに保存されている。

その中で特に詳細まで抽出したのが幼年訓練所時代のデータである。入所時のクラス編成、担当官名、成績表、適性検査結果、心理分析結果、そして交友関係調査結果。実弟ギロロ、ゼロロの名前が登場するのは当然だが、着目したのはそこではなかった。
現在、自分の部下に納まっている一士官。彼女に好意を抱いていた可能性に触れると、ガルルの指先が僅かに震えた。

机上のグラスを取る。中身は濃い琥珀色をした強いアルコールだった。一気に飲み干す。喉も胸も焼けるように熱くなるのはこの酒のせいではないだろう。
自嘲の笑みを浮かべた。吐き気がする。胸の中で滾る様に湧き出す感情は何か。赤く焼け爛れた杭で心臓を突き刺されるような痛み。愛しく、そして憎しみにも似た、狂おしい想い。
この苦しみは、いずれは解除せねばならない。
そうでなければ、ただ一人で無限の闇に囚われたまま沈吟に伏するまでだ。
沈むなら二人で、だから。

部下の待機場所へ繋がる通信機のスイッチを押す。
「私だ。即刻地球へ赴いて欲しい」
通信機からプルル看護長の声がする。了解、と弾むような声にまた、心が軋む。
モニターの電源を落とせば、部屋はほとんど視界の利かない暗闇になった。まるで仄暗い深海にいるようだとガルルは思う。





***





「以上が地球での報告になります」
地球はどうだったかと問えば、屈託ない笑顔でとても楽しかったとプルルは笑う。内偵調査結果の報告には短い返答をし、ガルルはトロロ新兵へ命令を下した。調査結果の改ざんと、そしてもうひとつ。
「地球のケロロ小隊基地へ通信文を送信してくれ」
内容はこうだ、ケロロ隊長に重大な用件があるので宇宙艇までお越し願いたい、と。
トロロからの送信完了の連絡を確認し、ガルルは微かに口角を歪ませた。
ようやく、ようやく君を沈める事が出来る。私がいるこの深く暗い闇へと。
そう、心中で呟いた。





***






ガルルに呼び出されてケロロは全身に緊張を漲らせていた。プルル看護長が突如現れた時から妙だとは思っていた。彼女が実はケロロ小隊の調査に来たのではないかと。
配属を名乗らなかったとはいえ、彼女は〈A〉級以上の侵略部隊に所属していることを明かしたのだ。その直後のガルル中尉からの呼び出しなんて、タイミング良すぎだ。あれが侵略についての査定なら、散々な結果が伝えられたに違いない。
彼女は幼馴染だからといって甘い採点をするような性格ではない。見たままの結果をガルルに報告した事だろう。そうであるからこそ、こうしてガルル直々に自分だけを呼びつけたと推察した。ただ説教をされるだけなら子供の頃から慣れっこだから何時間でも平気だけれど、そんな子供騙しで済む訳が無い。ガルル経由で上層部に報告されたのならば、どんな判断が下されたのか。
審判を待つ身のケロロは縮み上がったまま、宇宙艇のゲートを潜った。
「待っていたよ、ケロロ軍曹殿」
「ガ、ガルル中尉!?」
御自らのお出迎えとは驚いた。ガルルに促され、他の隊員に会う事もなく隊長室の小部屋に通された。

「私が何故君を呼んだのか…わかるかね?」
ケロロは俯く。そして消え入るような声で返事をした。
「…先日の調査結果の件と推測しているであります。それで我輩たちの処分が決定したのでありますか?」
「処分?何のことだか私には理解し難いが」
えっ?と首を傾げたケロロは、途端にヒッ、と喉を引き攣らせた。
ガルルの顔が眼前に迫っていた。
その唇が何か呟いたが聞き取れぬまま唇を塞がれる。
驚く暇も抵抗する隙もなく口内に液体が侵入する。その苦味を味わう間もなく、魂が抜けるように意識が遠ざかる。

「耐性のない身体には即効性の高い催眠誘発剤だ。局所弛緩薬と調合したオリジナルだが副作用は皆無だ。安心したまえ」
崩れ落ちる身体を支えながら、ガルルは少しだけ微笑んだ。



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