「ギロロなら出かけてしまっているよ」 ギラギラと灼熱の太陽が照り付ける昼下がり。 ケロンゼミのやかましい蝉時雨の中、ガルルは庭の樹木の陰に隠れているケロロを見つけ、声を掛けた。 このままでは日射病にでもなりかねない。 動かないケロロの背中を押して、家の中へ招き入れた。 冷蔵庫に冷やしておいた土産のカルプスΩをグラスに注ぎ、炭酸水で薄めて氷を数個入れたものをケロロに差し出した。 こういうところに遠慮はないケロロは、ストローでチューチューと凄い勢いで吸い込んでいく。 乳酸飲料特有の甘酸っぱさが乾いた喉を潤せば、自然に笑みが溢れた。 「ウチのよりダンゼン濃い!」 ケロロの家ではワンフィンガーが定番だが、これは倍の濃味がした。 それに炭酸で割っているので、味わったことがない美味しさだった。 「ギロロの兄ちゃん、ありがとう!」 ご機嫌のケロロは満面の笑みでそう言うと、ガルルはゆっくり頷いた。 「それはよかった。それはそうとケロロ君はギロロと喧嘩でもしたのかな?」 ケロロが思い切りギクッとした表情を見せたので、ガルルはやはりそうかと確信した。 昨晩からギロロは大層不機嫌だった。 どうしたのか聞いても、兄ちゃんには関係ないというばかりだった。 「…それでギロロとは仲直り出来そうかな?」 数分間押し黙っていたケロロは、じっとガルルの目を見つめた。 「…うん。カルプスΩもう一杯飲んだら仲直りしてやってもいい!」 ガルルはその無邪気さに笑いを零した後、ゆっくりと首を横に振った。 「二杯も飲んだらお腹を壊してしまうよ?」 おもむろにガッカリしたケロロの肩を軽く叩きながら、こんな提案した。 「ケロロ君、その代わり明日も家においで。そうしたらまた入れてあげるから」 ケロロは元気よく頷き、手を振って帰っていった。 翌日、ガルルを訪ねて来たケロロを、玄関でギロロが出迎えた。 「あ…」 互いに顔を見合わせた後、ケロロは小さな声で呟くように言った。 「…ごめん」 「もういいよ。それより早く上がれよ、兄ちゃんがカルプスΩ入れてくれるって」 「うん!」 外はやかましいほどの蝉時雨。 白く甘酸っぱい炭酸水がもたらした仲直りは、夏休みの贈り物。 end |