GLL×K66

□Long-distance
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「ま…」

と、言葉が出そうになって、ケロロは慌てて口を噤む。

「うん。また、今度…」

今度はいつになるのか、そんなのは自分にも彼にも分からない。
本当は「また、任務でありますか」と愚痴が飛び出そうになった。
また、今度。
そう言い変えるのがやっとで、彼を思い遣る言葉なんて出てきやしない。

通信機の電源ボタンをオフにして、ケロロは深く溜め息を吐いた。
仕方のないことなのだ。
ずっと地球に滞在する自分と違って、相手は宇宙中を任務で飛び回っている。
しかも、長短入り交ざった彼の任務は一日で完了の時もあれば、一ヶ月の時間を有する時だってある。
せっかく取れた休暇も、急な任務でこうやってポシャったりするのだ。

テーブルには、ガルルのために用意したお取り寄せワインとグラスが二つ。
唇を噛んで立ち上がり、それを棚に仕舞う。
何気なく付けたテレビの画面では、トレンディドラマの再放送が流れていた。

私と仕事、どっちが大事なのよ!

なんて、女優が泣き叫んでいる。

「我輩と任務、どっちが大事でありますか!」

そのまま台詞を真似てみる。

「………なーんてね」

とは言ったものの、思わず感情移入している自分が恐くなった。

プチッとリモコンでテレビを切った。
今、そんな恋愛の修羅場シーンなんて見ていたら余計にイライラしてしまう。

本当はどこかでそう思っているんだろう。
せっかく取れた休暇なのに。
もう二ヶ月も逢ってないのに。
軍のバカ。
ガルル中尉のバカ。

我輩のバカ……。

仕方ない、で済ませられない自分の中の本心。
逢いたい、逢いたい。
今度休暇が取れるのはいつ…でありますか?

何も無くなったテーブルの上に突っ伏せば、手首のあたりはすぐに水浸しになっていく。
こんな女々しい姿は見せられない。
10分間だけ泣いたら、後はフツーに戻ろう。

と、思いながら寝入ってしまった。




「ケロロ」

誰かの呼ぶ声。
優しい低音。
聞き慣れた、どこか甘さを含んだ声。

ハッ、として顔を上げれば、自分を愛しげに見つめる恋人の顔。

「ガ、ガルル!な、な、なんで!?」

あわあわとうろたえているケロロに向けられた瞳は、この上もなく優しい。

「まったく…。通信機の電源を切っていただろう?」

きょとん、とした表情で瞳をしばたかせれば、太い指が頬に残った涙を拭った。

「戦闘開始前に敵軍から和平交渉の申入れがあり、出動中止になったのだよ。後は上層部の判断であって、私の出る幕はなくなった、という訳だ」

フフ…と愉しげに笑って、ガルルの唇が口元の涎を舐め取った。
泣きながら寝入った様を知られてしまい恥ずかしいやら情けないやらで、ケロロにはガルルの話した内容が頭に入らない。
ただ、分かるのはこうして逢いたくて逢いたくて堪らなかった恋人が、目の前にいること。

「夢…見てるようであります」

自分の頬をつねろうとすれば、その手を取られる。
そのまま引っ張られ、あっという間に胸の中にいた。

「夢かどうか、すぐに分かる」

唇を塞がれ、滑り込んできた舌は熱い。

あ、ワイン…。

ゆっくりと絨毯に押し倒されていく時、先ほどまでテーブルでガルルを待っていたワインの瓶が、視界の隅に見えた。
それから視界は天井に変わり、そして。
すぐに目を開けていられなくなった。

ガルルの指が、舌が、性急に求めてくる。
自分を受け入れる為の準備を、迅速にケロロの身体に求めてくる。

彼も逢いたかったのだ。

その余裕の無い仕草がそれを伝える。

「ガルル…ま、待って」
「待てない」
「……っ」

狭い入口を押し分けて入ってくる彼の熱さに、息が止まりそうになる。
その苦しい呼吸を、唇が更に追い詰める。

「……っ、苦し、ガル…ル…」

もがくケロロを封じ込めた腕をも緩めずに、そのまま奧深くまで串刺しにすることを止めない。

彼の激情を受け止めようと必死に腕を伸ばし、咽び泣きながらその汗ばむ背中に絡みついた。

「このまま、お前を殺してしまいたいよ」

驚いて開いた目に汗が沁みる。

「離れていたくない」

その燃えるような瞳に、瞼の奧が焼けそうになる。
激しい言葉に身体が興奮して、彼をきゅうきゅうと締め上げる。

「あぁ…ガルルぅ…」

内臓まで達しそうな熱い杭が、心をも食い破ってしまいそうだ。
破裂しそうな、熱い愛が、狂おしく、渦巻いて。

わかってしまう。
そうなんだ。
もしも、ずっと一緒にいたら、きっととても幸せだけれど。
こんなに痛いほど愛し合えるのは離れているから。
逢いたくても逢えない。
それが、こんなに二人を燃え上がらせる。

それに慣れてしまったから、貴方も我輩も。
だから、きっと、ずっと一緒にいたら……。
物足りなくなってしまうだろう。

こんな燃える想いを知ってしまったから。

上り詰めて真っ白な世界に突き落とされて、彼の熱のありったけを身体中で受け止めて。
このまま中から焼け爛れて、死んでしまってもいいのだけれど。

「でも…そうも出来ないな」

貴方も同じ気持ちで。

「うん…」

お前も同じ気持ちで。

離れていたくない、片時も。
それは同じ気持ちだけれど。

「ベッドに行くか?」
「腰が抜けたから連れてって欲しいであります」
「だらしないな。フフ、もう少し鍛えてやろう」

こうして一緒にいる時間は、果ても無くただ、溶けるまで愛し合おう。
また、明日から離れてしまう時間を埋める為に、それが二人を繋いでいる証し。




end




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