突然手首を掴まれたかと思うと、声を立てる間もなくドアの内側に引き込まれた。 強引な仕草ではあったが、ドアは驚くほど静かに閉められ、新たな空間が生まれる。 手首から離れた指がゆっくりと腰に回り、引き寄せられた胸の中で、誘拐犯が囁いた。 「逢いたかった」 ケロロは頬に熱を感じながら、その甘い囁きを払拭するように、わざと無愛想に返した。 「だからって、強引であります。大体からして、何で我輩がここにいるって…」 「ケロロ軍曹殿、貴方の声はよく響くのですよ…」 誘拐まがいに自分を連れ込んだ理由が、それなのか。 文句のひとつも言ってやろうと身構えた瞬間。 「私の胸に」 気障な台詞も使う人物次第なのだ。 鼓動が弾み、頬の温度がまた少し上昇する。 言葉を失い口パクになったところに、すかさず唇が、続いて舌が割り込んできた。 「ぁ…んっ」 熱い吐息を漏らせば、芽生えた欲情に更に火を点けようと、紫の指は肌をするすると滑り下りた。 「やっ…ガル…ル中尉…こんなトコで…」 「他の場所なら構わないと?」 ああ、口で敵う相手ではない。 そうじゃなくて、と言葉を発する間もなく、指は弧を描くように性感帯を掠めながら動いた。 「はぁ…んっ」 漏れる声にも気を遣う。 ここはケロン軍統括部施設の一室。 事に及んでしかるべき場所ではない。 たまたま軍用で呼び出されたケロロは、偶然会った旧知の士官と廊下で立ち話をした。 それだけだ。 用も済んで、あとは地球に帰還するだけ。 それだけの筈だった。 ガルルが来ていることなど知らなかった。 だからまさか、上官室を出て数十分後にこんな事態になるとは、晴天の霹靂だ。 熱い、熱い。 容赦なく自分を高めるガルルの指。 どこもかしこも熱くて、特に内側で膨らむ熱が、残った理性など打ち砕く勢いだ。 「あ…ガルルゥ…」 声に滲んだ欲望はあからさまに伝わったことだろう。 求めるようにケロロは両腕をガルルの背に回した。 勇猛な金色の瞳が一瞬、和らいだ。 もうここでして、という無言の誘いが、ガルルの欲を奮い起たせる。 「壁に手をつきなさい。その方が負担が少ない」 耳元をあまがみすれば、甘い吐息を大きく零した。 「…いぃ、これで」 そして自ら絡めようとする一方の足を、ガルルは高く持ち上げた。 抱えた片足の下に下半身を潜らせ、ケロロの背を壁に押し付ける。 立ったままの姿勢で自分の内部を割るガルルに、ケロロの唇から小さく悲鳴が上がった。 「あぁぁっ…やぁ…こ、声が…」 首に回した腕に力が篭る。 ガルルは笑いながら、唾液に濡れた唇を塞いだ。 軍施設はどこも完全防音で、当然盗聴器は破壊済みだ。 お前の可愛い声を誰にも聞かせる訳がないだろう、と。 突き刺す度に、結ばれた口腔内に消えていく悩ましい声。 呑まれたのは自分の方かと、ガルルはほくそ笑んだ。 end <蛙は口ゆえ蛇に呑まるる> 蛙は鳴くので蛇に居所が知れて呑まれる意から。余計な口をきいて身を滅ぼすことのたとえ。 |