高校三年生(キッド退職後)
□それは薔薇色の・・・
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あなたに愛を唄う 未来編
怪盗キッドが愛した女4
−それは薔薇色の・・・−
「卒業生代表、山下真・・・」
教頭の声がスピーカーを通して体育館に響く中、呼ばれた生徒が立ち上がった。
粛々と進められる卒業式。門出たる大切なイベントではあるが、思い出になるかというと、覚えているのは小学校の卒業式だけで、二度目の中学校の卒業式の記憶は曖昧だ。
むしろ、式が終わった後の出来事の方が鮮明に覚えている。このままではおそらく高校の卒業式もまた、記憶が霞むくらいに特徴無い式典で終わって行くのだろう。
そう、このままであったなら・・・・。
かなえと快斗は、卒業生代表の彼が、ゆっくりとステージの上に上がっていくのを見ながら、にぃっと口角を釣り上げた。
「one・・・・」
『two・・・・』
「『three・・・!』」
かなえと快斗の声がインカムを通してハモる。
山下真と呼ばれた卒業生代表がステージ中央に来た瞬間、彼を隠すように煙が上がった。
どよめく会場。慌てる教員たち。
そして、煙が晴れ上がった場所にいたのは・・・
「ということで、山下に代わりまして、不肖、黒羽快斗が卒業生代表の挨拶をさせていっただきまーす!」
なにが「ということで」なんだっ、と教師陣が心の中で叫んだタイミングで、快斗が両手をばっと広げた。
銀鳩たちが一斉に、飛び出し、卒業生たちの頭の上を羽ばたいていく。
出血大サービスよろしくポンポンポンと快斗の手から生まれ飛び出る銀鳩たち。その腕前に体育館にいる全員が思わず快斗にくぎ付けになっていた。
「よっ!まってましたーーーー我らがKU・RO・BAーー!!!」
卒業生の一人、快斗の悪友が声を上げる。
「いいぞー!!やれーーー!!」
「黒羽くーーーーーん!」
「きゃーーー!!黒羽せんぱーーーい!!」
それをきっかけに、体育館に居る卒業生と吹奏楽部の部員たちが次々に歓声を上げ、保護者席からは拍手が。
粛々と進められていた卒業式が一気にお祭り騒ぎになってしまった。
くそ真面目な卒業式にはないイレギュラーな展開に、きっと一生忘れない思い出になるに違いない。
卒業生と在校生、ノリの良い一部の保護者たちの歓声や拍手を受け、快斗は右へ、左へ、中央へと優雅にお辞儀をした。
「こ、こらーーーーーー黒羽っ!!お前たちも!」
はっと我に返った教頭が、慌てふためきステージに上がろうとするが、その教頭の背後に音もなくかなえが現れた。
『はーい、ごめんなすって!』
「え?」
気づいた時にはすでに遅し。教頭の身体はかなえによって、ロープでぐるぐる巻き状態になっていた。
『安心してくださいっ。すぐに終わりますよっ』
かなえがにっこり笑った。
その後ろでは、校長を始め他の先生たちも、椅子から立ち上がろうとしたところで足をもつれさせて、床にすっころんで悶えている。
彼らの両足にはロープが巻かれ、しかも念には念をと言わんばかりにパイプイスにそのロープの先が結えてある。
教師やPTAたちが慌ててロープを解こうとしているが、ややこしい結びになっているため、なかなかほどけず悪戦苦闘。
教頭はそんな教師たちを見て、あがーっと口を大きく開けて放心した。
『邪魔者排除、完了であります!』
かなえが、びしっとステージ上の快斗に向かって敬礼をした。
快斗が満足そうに頷いた。