高校二年生編(キッド誕生)

□京都旅行と消えたメモ
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あなたに愛を唄う 18
−京都旅行と消えたメモ−




盆地は暑くて寒い。

京都に舞い落ちる雪を見ながら、私はほうっと息を吐き出してみた。吐息は、ここがどれだけ冷えているかを示しているみたいに真っ白だった。

『・・・・・・これはひどい。足が凍死しちゃう』

かばんの中から足先用ほっかいろを取り出して、袋をやぶった。それを足袋の裏側にぺたりとはっつける。

さっきからチクチクとした痛みを訴えていた足先に、じんわりとあたたかい熱が伝わってくる。



今さらだけど、着物なんて着てくるんじゃなかったと後悔する。
せっかくお正月に京都へ行くのだからと、お母さんに着物を着つけてもらったけど、まさかこんなに足先が冷えるとは思わなかった。

その上、ちょこちょこ歩きしかできなかった私は、人ごみの中であっという間に両親とはぐれてしまった。
いろいろよそ見しすぎちゃったのも原因だけれど。


人ごみをかきわけて探すより、自由行動してしまえと思った私は、公衆電話で宿泊ホテルのフロントに、私の両親から連絡があったら伝言してもらえるようたのんで、人ごみがいない方へと逃げてきたのだ。

まだ携帯というものがない時代。はぐれたときや待ち合わせ方法など、いろいろな工夫と事前の確認がいる。

携帯という便利なものを知っている私にとってかなり不便な時代だ。
今いる場所がどこなのか調べるにしたって、携帯があったらGPS機能で一発発見なのに。
17年間、携帯という存在から離れていても、やっぱり事あるごとに携帯があったらと思ってしまう。

『・・・・・・あ、止んだ・・・』

ちらちらと降っていた雪はいつの間にか止んでいた。遠くの空には雲が切れ目を作り始めている。

今日の天気は午後から晴れ。
たぶんこの寒さも少しはましになるはず。

それにしても、京都は観光地だけあって、どこを歩いても人がいる。お正月ということもあってか、神社だらけの京都は、大勢の参拝者であふれていた。

私はほどよいくらい人が往来する道を、てくてくと歩いている。
さっきから一体何人に追い越されただろう。
追い越していくのは、みんな洋服の人ばかり。





体の不自由さを感じて、ちょっといらいらしてきた頃、私は少し閑散とした場所に出た。

お城を囲む城壁のような、白い壁が続く道だった。
なにかの城跡か、侍屋敷の跡だろうか?かなり大きい屋敷だ。道のはしっこまで塀が続いている。

私はその塀をぼーっと見上げた。
塀のてっぺんは瓦の屋根がつけられていて、その向こうに柿の木が立っている。
ちょうど、猫が瓦の上を歩いて横切って行った。

いいなぁ・・・、猫は自由で。

今の私は着物と言うスポンジに巻かれた生クリームとフルーツ状態。昔の人はよくこんな姿で一日過ごせたもんだ。心の底から尊敬する。
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