*6匹の野獣ども*

□あたしとテギョンの2週間
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「少し図書館つきあってくれませんか?」


帰ろうとバッグを背負った矢先に突然言われた。


「あ、あたし?」

「はい」

「他にも図書館ついてってくれる人いるでしょ!あたし今から家帰るのに…」

「ごめんなさい…少しでいいからつきあってください」

「…しょうがないなァ」


彼はあたしに何度もありがとうと言ってから図書館へと向かった。


彼の名前はオクテギョン。
4日前からこの学校にやってきた交換留学生だ。
2週間、あたしのクラスであたしたちと一緒に勉強するのだ。


テギョンはあたしの隣の席。
窓際の一番後ろ。
休み時間も授業中と同じように真面目に勉強をしている。
そしてわからないことがあったら昼休みや放課後に図書館へ向かう。
今あたしはそれの付き添いをしているのだ。


「別に1人で行けるでしょ?場所も知ってるだろうし…」

「1人は少し寂しいです。僕まだあなたとしか喋れない」

「ウソつけ!!あたし以外にも話かけてくる人いっぱいいるじゃない!!」

「でも…心から喋ってて楽しいのはあなただけなんです」


目を見て言われた。
ウソのないまっすぐな瞳だった。
悔しいがあたしは思わずドキッとしてしまった。


そして図書館で本を探し一生懸命ノートにメモする彼をあたしは眺めていた。


韓国でラグビーをやっていたというその体は大きく、背も高い。
その割には顔が小さくて整った顔立ちをしている。
全体的にゴツいのに手は小さくてかわいい。
そして右手を休めずに前髪をかきあげる。
その仕草がなんともかわいらしかった。


こんなにもまじまじとテギョンを見たのは初めてだった。





「つきあってくれてありがとう」

「いいよいいよ、家に帰ってもやることないし…」 

「お礼に何をすれば…」

「お、お礼だなんて…!!」

「んー…あ!今のど渇いていませんか?」

「まー渇いてるといっちゃ渇いてるけど…」

「ジュース、おごらせてください」

「!?」


またもまっすぐな瞳に見つめられた。
その瞳があたしを硬直させる。


「自動販売機すぐそこだから、僕買ってきます。何が欲しいですか?」

「え…んじゃ午後ティーで…」

「ゴゴ…ティー?」

「えーと…ファンタの右隣の!」

「あー…わかりましたッ」


タタタッと駆け足で自動販売機へ向かい、大きな体をかがめて小銭を入れ、ファンタとその隣の午後ティーを買った。


「ありがと…」


テギョンはファンタの蓋を開けてグイッグイッと飲み始めた。
グイッグイッと音がするたびに喉仏のところが膨らむ。
プハァ!っと歯をだしながら笑い満足げな顔をするのが愛らしかった。


「僕のせいでごめんなさい。早く帰りましょう」


ニコニコと笑うテギョンにあたしは何も言えなくなっていた。





電車の中。
あたしはたくさんテギョンから話を聞いた。
家族のこと、学校のこと、趣味のことや日本で楽しかったこと。
とても楽しそうに話すテギョンを見ているととても健気に思えてきた。


外国の日本でこんなにも頑張ってるテギョンを心から応援したくなった。


そして途中で話し疲れたのか寝てしまった。
その寝顔のかわいいこと…。
真面目な勉強姿とは打って変わって猫のようなかわいい顔をして寝るんだな…。


あたしは寝ているテギョンに「また明日ね」と囁いて電車を降りた。
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