働くお兄さん
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【2】
親切にしてくれたことは有り難いが、ここまでくるとお人好しすぎやしないか。
具合が悪かったとは言え、一晩泊めてくれただけでなく、知り合ったばかりで名前ぐらいしか知らない他人に鍵を預けて出掛けるだろうか。
昨夜は知らない間に眠っていたらしい。
しっかりベッドを占領していたから、香坂はソファにでも寝たのだろう。
目が醒めると、香坂は居なかった。時計を見ると10時を回っていて、すっかり日が昇っていた。
「さすがに寝過ごしたわ」
香坂がいない代わりに、ダイニングテーブルの上にメモが置いてあって、話しは冒頭に戻る。
メモには、鍵は管理人に預けておいてほしいと書かれていた。
ちなみに、名前の漢字がわかったのはメモにサインしてあったからだ。
少しは警戒心とか湧かないのだろうか。
「何か盗まれるんじないか、とか思わないのかよ」
香坂は会社にでも行ったんだろう。
昨日は居酒屋に行ったし、浴びるほど酒を呑んだから、風呂に浸かりたかった。
髪も洗って歯も磨いてすっきりしたい。
しかし流石に他人の家だし、何しろ本人が居ないのでは何もできない。
「家帰ってシャワー浴びてから学校行くか」
このまま休んでもいいけれど、そうすると自宅に学校から直接電話がいくから面倒だ。
そうして、御門は部屋を出た。