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□好きでも嫌いでも
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感情がない。
沖田君は確かにそう言った。
「姉上の話では、ガキの頃俺が笑ったところを見たことがなかったらしいでさァ。
友達がいなくても寂しそうにもしてなかったって。」
確かに沖田君は、感情を表に出すタイプじゃない。
でも、でも・・・
「でも、俺は沖田君が笑ってるとこ見たことある。怒ってんのも、泣いてんのも。」
「物心ついた時から練習してたんでィ。
ドラマもアニメも漫画も見尽くして、
人はどんなことで笑って、何をされたら怒って、何があったら涙を流すのか。普通に生きていくためには感情を作るしかなかったんでさァ。」
自分の耳に入ってくることが信用できない。
沖田君に感情がない?
俺が好きだった時間は、空間はいったい・・・
「旦那、怒ってますかィ?」
「なんで俺が怒んの?」
「俺は旦那を騙してたんですよ?
感情があるふりして。
騙されれば普通は怒るんでしょう?」
沖田君は当然、人の感情も分からないんだろう。
知識として理解しているだけで。
「騙されれば、何でもかんでも怒るわけじゃないよ。」
沖田君はニコッと笑った。
この笑顔に感情が乗ってないなんて、誰も思わないだろう。
「まだまだ勉強不足ですねィ。
理解できないことが山ほどあるんでさァ」
沖田君は立ち上がって言った。
「そろそろ仕事に戻りまさァ。」
「うん。」
俺はそう言うことしかできなかった。
そんな俺に沖田君は言った。
「最後に教えてくれますかィ?
好きってどういうことなのか。
俺の中で最大の謎なんでさァ。」
今度は俺が沖田君をまっすぐ見つめて答えた。
「夏休み最初の日の気分と最後の日の気分を合わせた感じかな。」
「その説明じゃ、まだ謎のままですねィ。」
そう言って沖田君は団子屋を出て行った。
「大変な子好きになっちゃったもんだな。
俺も、アイツも。」
俺は空に向かってつぶやいた。