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□こんな始まり方
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任務もない穏やかな午後。
リオンは庭に面しているベンチに座り、静かに本を読んでいる。
そばにあるテーブルの上にはマリアンに入れてもらった紅茶がまだ湯気を立てていた。

そのテーブルの反対側に座り、やはりマリアンに入れてもらった紅茶を飲みながら雑誌をひたすらめくるケイリー。
時々うんうんと頷きながらめくられる雑誌はケイリーが読み始めてからそれ程の時間が経っていないにもかかわらず、すでに三分の一がめくり終わっている。
最近ダリルシェイドで人気の雑誌らしいが、普段から雑誌の類はあまり読まないリオンには面白さがまったくわからない。

ただこんな穏やかな時間も悪くはないと、リオンも自身が持っている本を読み進めていくのだった。

風が柔らかく2人の髪を揺らす。
リオンはケイリーに気づかれないようにそっと彼女の方に視線を向けた。

何時からだっただろうか、この目の前にいる少女の存在が煩わしいと思わなくなったのは。
初めは自分の補佐官として就いたこの少女の存在に唯々イライラさせられた。
1人でも充分に任務を遂行できる、補佐なんていらない。
自分に必要なのは母の様な愛情を注いでくれるマリアンと、生まれた時より一緒だった愛剣のシャルさえいれば良かったのだ。
それがいつの間にか目の前の少女がいるだけで心が満たされるような感情を抱くようになった。
そればかりか彼女がいないだけで心に穴が空いたような感覚を抱くのだ。
目の届く場所に居ないと心配だし、視界の中に居たらいたで、他の男としゃべっている姿に良い気はしない。
独占欲。そんなことは理解している。
自分の気持ちがわからないほど子供ではないし、鈍いつもりもない。
そう、ただいつの間にか瞳を閉じると最初に浮かぶのがマリアンからケイリーに変わったことに、わずかばかり戸惑っているだけ。

後はどうやって自分のこの気持ちを彼女に伝えるかだが……

「……オン、リオンったら、私の話聞いている?」

「ん?ああ、すまない。考え事をしていた」

いつの間にか自分の考えに没頭してしまい話しかけられていることに気がつかなかった。

ケイリーはもうと言い、その頬を膨らます。

『坊ちゃんはケイリーに見惚れていて話を聞いていなかったんですよ―って坊ちゃん痛い!痛いです!!』

リオンの腰にあるシャルティエがからかうように声を発し、リオンは無言でシャルティエのコアクリスタルに爪を立てて黙らせた。

「それで、どうしたんだ」

「あのね、このお店に付き合って欲しいの」

そう言ってケイリーが差し出した雑誌に書かれていたのは"特集カップルで行きたいカフェ"だった。
ページの至る所に赤やピンクのハートマークが描かれている。
ケイリーが指を差しているそのページの一角にあるのはカップル限定ラブラブモンブランセットというものだ。
名前の馬鹿馬鹿しさ加減はどうかと思うが、それを差し引いても写真に写っているモンブランはとても美味しそうである。
自分に負けず劣らず、いやそれ以上に甘いもの好きのケイリーらしい。
大方男女ペアでなければ食べられないこのモンブランを一緒に食べに行ってほしいのだろう。
普段、気恥ずかしさのせいであまり一人では甘い物を食べに行かないリオン。
お互いの利害は一応一致してはいるが。

「お前に付き合って恋人のフリをするのごめんだな」

「そっか、そうだよね」

残念そうに雑誌を戻すケイリー。
だがと言うリオンにケイリーはキョトンとした顔を向ける。

「お前と付き合えるなら悪くはない」

「え?それってどういう……」

「確か今度の非番は明後日だったな。返事はその時でいい。行く気があるなら多少は粧し込んでこい」

一人言いたいことだけ言って立ち上がるリオン。
理由のわからないケイリーはおろおろするばかり。
去り際に振り向き「なんせ初デートだからな」としたり顔で笑うリオンにやっと言われた意味を理解したケイリーは顔を真っ赤にさせた。


こんな始まり方


答えを出すまで後一日。
あ、明日の任務どうしよう……



2013.2.15 沙良
拍手掲載 2013.2.15〜3.26



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