黎明を告げる風

□01.風の降り立った場所
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ストレイライズ神殿。
そこは女神アタモニを崇め奉る者達が信仰と共に暮らす場所。
またはここセインガルドに住まう者が己の信仰の為、祈りに訪れる場所でもある。
それはセインガルド国王の王妃でも同じことで、王妃に信頼されているリオン・マグナスもまた彼女の護衛としてこの地に訪れていた。
王妃が祈りを捧げている間、特にアタモニ神の信者でもないリオンは手入れの行き届いた中庭を散策し、時間を潰していた。
セインガルド城の中庭には劣るが、よく手入れをされた綺麗な庭だ。

『あれ?』

「どうした、シャル?」

リオンが神殿に戻ろうとした時に、彼の脳内に聞きなれた声が響く。
声の主は彼の腰に提げられている一振りの剣。ソーディアンと呼ばれる世界に6本しか存在しない剣だ。
その一振りであるソーディアン・シャルティエは幼少の頃からリオンと共に在る、彼が最も大切にしている存在の一つ。
シャルティエが自身の核となるレンズを光らせる。ソーディアンの声は一部の素質ある者しか聞こえず、その素質ある者がソーディアンに選ばれて振るい手・マスターとなれる。
リオンもまたソーディアンマスターと呼ばれる一人だった。

『坊ちゃん!一瞬ですが向こうから巨大な晶力反応が』

「何!?まさかこんなところにまでモンスターが」

『わかりません。でも』

「とにかくその場所へ行けば分かるはずだ。王妃に何かあってからでは不味い」

リオンはシャルティエの詳しい場所を聞くと、その場を駆け出した。





リオンは早々に例の場所に着くが、その場所は異常があるようには見えなかった。

「シャル、この辺か?」

『はい。ですが今はもう何も感じません』


「そうか。見たところ近くにモンスターはいないようだな」

辺り一帯を見渡してみるが、モンスターの姿らしきものはない。

『坊ちゃん、あそこ!人が倒れてます!!』

シャルティエの声に反応してすぐさま植木の方を見ると、植木の影に隠れるように人が倒れていた。
リオンが駆け寄って倒れていた人物の側に膝を着くと、外傷がないか確認し始める。
倒れていたのはまだ子供と呼べるリオンと同じくらいの年齢の少女だった。
リオンは少女に傷が無いのを確かめると上半身を抱き起した。
少女の髪がサラリと手にかかる。

「おい、お前。一体、何があった!?」

『見たところ怪我は無いようですが……もしかしてこの子寝てるだけ、とか?』

軽く肩を揺さぶってみて少女が目を覚ます気配はない。

「どうやらそのようだな。まったくこれだけ騒いでも起きないとは」

『すごくぐっすり寝入ってますね』

「こんなところで寝ているとは……呆れた奴もいたもんだな」

そういうとリオンは再び少女を地面へと寝かし、立ち上がった。

『あれ、坊ちゃん戻るんですか?』

「モンスターがいない以上、此処に居ても意味がないだろう」

『でもこの子……』

「放っておけ。そのうち自分で目を覚ますさ。僕達がそれを待ってやる義理は無い」

リオンは眠りこけている少女を冷めた目で一瞥し、そのまま踵を返そうとする。
そんな彼をシャルティエが止めた。

『でも』

「煩いぞシャル。この件はこれで仕舞いだ。僕は王妃の元に戻る」

『わかりました。戻りましょう、坊ちゃん。でもこの子も運んで行って下さい』

突然のシャルティエの言葉にリオンは己の腰に在るシャルティエを見た。

「本気で言っているのか?」

『ええ、もちろんです。このまま此処に残していて運悪く魔物にでも襲われたら目覚めが悪いでしょう?』

「それはそうだが……」

『途中でここの神官にでも渡せは良いじゃないですか』

「はぁ……わかったよ、シャル」

リオンは再び屈むと少女を抱き起こした。
少女はついにリオンの前で目覚めることは無かった。



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