連載「花が咲く瞬間は…」
□第二章 恐怖との闘い
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「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ある日、俺の家に女がきた。
霧生翼。
女は大きな問題を抱えていた…。
男性恐怖症。
≪第二章 恐怖との闘い≫
ごめんなさい……ごめんなさい……
あのときの声が、頭から離れない。
恐怖に怯え、震えた声。
あれから3日、俺と翼の距離は悲しいものになった。
あの日からアイツを部室に近づいていない。
少しだけ、近づけた気がしていたのに…。
翼は俺の目を見ようとしない。
俺にはどうすることも出来ない。翼を襲う恐怖、その恐怖そのものが俺だ。
俺が翼に触れようとすれば、翼が恐怖を感じてしまう。
俺には、どうすることも出来ない…。
あの日、翼が初めて氷帝に登校した日…。
一人で帰らせるのも心配で、教室に残して部活をするのも心配だった。
教室で待たせていた翼を連れ、俺は部室に向かってしまった…。
翼があのとき、どれほど辛い思いをしたか……。
“跡部”の家に置いてもらってる立場のアイツからすれば、俺に逆らうのは不可能。
断ることができなかった。
男が苦手だというのに、男だらけの部室……怖かったはずだ…。
「…け、景吾さん」
「翼?」
突然、ノックの音と翼の声がした。
珍しいな、アイツが俺の部屋に来るなんて…。
「…入っても、いいでしょうか」
「入れ」
震えている。
目を合わせようともしない。
翼にとって、俺は恐怖そのものだ…。
「どうした?」
「…テ、テニス部の!」
「?」
「テニス部の…テニス部の人たちの名前を教えてほしいんです…」
「なぜだ?」
さすがに直球だったか?
聞いてから少し後悔した。
翼にとって、俺と話すことは恐怖だ。
わざわざ俺から質問をぶつけるなんて…。
「謝りたいんです…。この間、いきなり部室を飛び出して…皆さんに迷惑を…」
「迷惑なんて、誰も思ってやしねーよ。俺からも事情は軽く話した」
プライバシーの侵害かもしれないが、あの後アイツらには事情を説明した。
どうしよう跡部…俺、翼に酷いこと……どうしよう
ジローの奴なんて、話を聞いて泣き出しそうになってやがった。
誰も迷惑なんて思ってやしない。
謝りたいのは、アイツらのほうだろう…。