舞ウ、花弁

□宍戸亮
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「あー…怠いー…」

宍戸の声が誰もいない部屋でぽつりと響く。


「この痛みどうにかなんねーのー?」



深い溜め息をつきながら、宍戸は問い掛けた。


『亮。こっちだって必死に抑えてるんだけど』



宍戸と同年代であろう少年が少しふて腐れた様子で言う。


「ですよねー…」



はあ、



二人の溜め息が重なった。


『んでさ、』

「うあ?」

『…廊下にさ、いるよね』

「知っててほっといてる」
『あ、成る程。
で、どうすんのさ?
僕はどうでも良いけどー』

「…入って来ればいんじゃね?
長太郎ー」



「あ、あは…。
失礼します…」


扉から頭だけをひょっこり出したあと、苦笑いを浮かべながら鳳が部屋へと足を踏み入れた。



『やあ鳳くん。こんにちわ』


にこり。


少年が意味深な笑みを浮かべる。
そんな少年を鳳は不思議そうに見ていた。



「あー、紹介遅れたな。
こいつは『蓮華』。
俺の…」


少し困った顔をしながら、宍戸が間を置く。


「親友、だよ」


『……うん。そう、親友だね』



「じ、じゃあ『蓮華』さんで良いですか?」


『うん。好きなように呼んで』



先程からにこにこと人懐っこい笑みを浮かべている『蓮華』。

たまにしか笑みを見せない仏頂面の宍戸とは正反対だ。


「…あ、あの!」


「あ?どうしたんだよ」


「『蓮華』さんは、いつここにいらしたんですか…?」


『五分くらい前かな』



「…」



五分、五分といえば、自分はもう廊下で中に入ろうかどうしようか悶絶していた所だ。

鳳の顔に冷や汗が伝った。


そもそも、合宿中である敷地内。
しかもこんな山奥に人が来れるわけがないのだ。

なのに何故、あの『菊』という人も。
この『蓮華』という人も。

一体どうやってここへ?



鳳は必死に思考を張り巡らせていた。


『そんな警戒しないでよー。
ほら、お話しようよ。

どんなお話をしようか…』

鳳ははっと目を見開かせた。

もしかして今は、宍戸さんと『蓮華』さんの関係を…、過去を聞き出すチャンスなんじゃ…。


「お二人の、過去について…」


お話、聞きたいです。



部屋に、静寂が訪れた。



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