Falsehood
□Situation
1ページ/1ページ
ガチャリ。
誰かが部室の鍵を閉めた途端、
中の空気が一変した。
「………」
「………」
黙々と着替えていくレギュラー達。
言葉を発する人は誰一人としていない。
他の人から見たらありえない光景であろう。
いつも言い争いはしているが、基本的に仲の良いテニス部だ。
少しでも会話は弾むはず。
なのに何故会話をしないか。
理由は簡単。
嫌いな人がいるから。
嫌いな人間がいるのにそうやすやすと話をしたくない。
まさに中学生の発想である。
鍵を開けている時や、少しでも窓が開いている時、もしくは嫌いな人物がいない時はそれぞれ多少の会話はする。
しかし全員が揃うと必ずといっていい程、
このような状況になるのだ。
「………なぁ、跡部」
「何だ、宍戸」
「明日の練習、俺休むわ」
「…分った。理由は後で聞かせろ」
「わり」
会話をしても、今の宍戸と跡部の会話同様、極力長く話さない。
自分の嫌いな人物じゃなくとも、だ。
何故こうなったか、誰にもわかっていない。
彼らは、自分の嫌いな人物と手を組んだり、仲間に鳴るくらいなら。
進んで転校なりなんなりするであろう。
それほど、仲の悪い者が居るのだ。
この、
氷帝学園中等部男子硬式テニス部レギュラー達には。
しかし、そんな彼らでも、一つだけ協力していることがある。
それは、
『この関係を、周囲にバラさない事』
だから他の生徒、教師、他校生から見れば、
彼らは仲の良い集団になる。
勿論、知っている人はいない。
彼らはそう自負している。
なぜならそれほどまでに、
彼らの演技は完璧だから。
そんな事でテニス部の評判を下げる訳にはいかないし。
そんな事を知られたくもない。
だから彼らは今日も演技を続けている。
「なぁ侑士!」
「なんや岳人」
「試合、やろうぜ!」
「ダブルスか?シングルスか?」
「勿論、ダブルス!」
Situation
彼は、あの人が嫌い。
彼も、あの人が嫌い。
でも彼は、あの人が好き。
恋愛感情ではなく、ただの友人として。
(さて、)
(俺は誰が嫌いでしょう?)