*2014新春企画 土沖福袋*

□私を抱いてそしてキスして
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「総司、服を脱げ」
「は?……土方さん、あの僕」
「脱げ」
「…………」
「脱げよ」

土方さんは二枚並べて敷かれた布団に腹這いに寝転び、指を組んでそこに顎をのせて、僕のほうを静かに見つめている。
出会茶屋が何をするところかなんて僕だって知っている。だからってどうしていいか分からない。だいたいここって男女で来るところでしょう。男同士でどうすりゃいいの……どうしていいか分からない僕は、その場に直立不動だった。僕も寝てしまおうか。別に出会茶屋だからと言って、絶対にしなきゃいけないこともないだろうと結論付けたところで土方さんが冒頭の台詞を言った。

「土方さん、いい加減にしてくださいよ。酔っ払いの戯れ事に付き合うのも」
「酔ってねぇよ」
「え」
「酔ってねぇって言ったんだ」
「なんで、あんなに飲まされてたのに」
「途中から水だった。不味いと思って、酒じゃなく水を入れるよう店に頼んだ。あの調子で飲み続けてたら俺はぶっ倒れちまうよ」
「で、でも色々とやってましたよ!恥ずかしいこと!」
「………俺、何かしでかしたか」
「……呆れた。あなたって人は……ほんの二、三本でああなっちゃうんですね」
「うるせえよ、いいから……早く脱げ」
「………なんで僕があなたの前で服を脱ぐ必要があるんですか」
「おまえの裸が見たい。それだけだ」
「…はあ?僕は男ですよ」
「知ってんよ」

知ってたのか………!
いや、冗談言ってる場合じゃない。どうすればいいんだろう。どうするのが今は正解なんだろう。僕の乏しい褥の経験ではいくら考えても妙案が思いつかない。そんな事はお見通しであろう土方さんの、これは僕への仕返しなのか。酔い潰そうとした事への。………ふざけてる!!それなら僕だけでなくあの場にいた全員に脱げって言ってよ。なんで僕だけなんだ。とんだ貧乏くじだよまったく……

「土方さん、わかりました。悪かったですよ。あなたのみっともない所を見たいなんて思ったりして」
「…………」
「ほら、謝りましたから、ね?もう気が済んだでしょう。屯所に帰りましょう」
「嫌だと言ったら」
「はぁ?」
「総司」
「はい、もう何ですか」
「脱いで」
「っ!だからっ」
「上はそのままでいいから下だけ脱いで」
「…………」

もう絶句するしかない。やっぱりこの人酔ってるよ………口調も何か違うし、男に向かって下半身だけ脱げなんてどうかしてる。

「早く。俺が見てるから、脱いで」
「…………」

こうなったらヤケクソだ。別にこれを脱いでも褌つけてるし、土方さんだって僕がまさか本気で脱ぐとは思ってないから、こうして困ってる僕を見て喜んでいるんだろう。脱いだらどんな顔するかな。本気にするなよって慌てて止めるかな。おあいにく様。土方さんは僕にからかわれていればいいんだ。僕をからかおうなんて土方さんのくせに生意気だよ。
僕は帯を紐解くと慣れた手付きで野袴を下げた。静かな部屋に衣擦れの音がして、僕の足元に見慣れた草色の野袴が丸まっている。

「はい、脱ぎましたよ。これでいいんでしょ」

僕は「どうだ」と言わんばかりの勝ち誇った顔で土方さんを睨んで笑った。酔っ払いの茶番もいい加減にしてもらわないとね。僕は今さっき脱いだ野袴をもと通り穿こうと、手を伸ばした。
ところが土方さんは慌てふためく訳でもなく、謝る訳でもなく、しれっとした顔で言い放った。

「下帯も」

はあ!!!!今度こそ僕は仰天した。いくらなんでもやりすぎでしょ。これ以上は冗談じゃ済まされないよ土方さん。
土方さんは相変わらず布団に寝そべって僕を見ている。

「総司」

土方さんが僕を呼ぶ。
総司って、僕の名を呼ぶ。その声がいつもと違う。誰を斬れと話す淡々とした声じゃなく、僕の悪戯をしかる怒鳴り声でもない。低く、艶のある、少し掠れた声。これは……はっきりと、欲情を孕んだ声。

土方さんが僕を見る。
冷たい目じゃない。でも温かくもない。
怒ってもいない。でも優しくもない。
嬉しそうでもない。かといって哀しそうでもない。
濡れた瞳。欲に、濡れた瞳。

「総司、早く脱げよ」

僕は頭の中が痺れるような感覚に陥っていた。土方さんに逆らえないんだ。言わなきゃ。こんな馬鹿なことやめましょうって。

「脱げ」

行灯の頼りない明かりがゆらゆらと揺れている。月の光が白く射し込んで、僕と土方さんの影を布団に長く伸ばしていた。
僕はゆっくりと褌に手をかけた。捩じ込んでいた端を引っ張りだし、布切れを取り払う。とたんに局部にひんやりとした空気を感じた。急所を覆う布が無くなり、言い様のない心細さを感じる。
上の着物の裾が僕の膝の少し上まであるから、見た目は野袴を脱いだ状態と変わらないだろう。
土方さんがじっと僕を見ている。値踏みするような、布の奥を通して見るような、そんな男の目で。僕はもじもじと太股を擦り合わせた。早く、早くこんな恥ずかしいこと終わりにしたい。

「裾、少しだけ捲れ」

僕は半べそだった。こんな屈辱的なことにどうして従っているのだろう。でも嫌だと言えなくて。拒絶できなくて。
ああ、僕はこの人が好きなのか……
僕は言われるままに着物の裾をたくしあげた。土方さん、やめてよ。こんなことさせないで。僕は男で一番組組長で遊女でもなければ陰間でもないんだ。あなたが好きなんだ。だからやめてください。僕はあなたの玩具でも慰みものでもない。あなたならどんな美女も選り取りみどりですよね。だから、僕の気持ちを遊ばないで……土方さん
土方さんが僕を見ている。
ただ見ているだけなのに、身体の中心深くに、土方さんを挿入されているみたいだ。
目だけで、犯される。はいってくる。土方さんが僕の中に。
僕のものがゆっくりと芯を持ち始める。
嫌だ。でも嫌じゃない。見ないで。でも見て。

「総司」

土方さんがふっと笑った。

「俺が今まで見てきたものの中で
おまえが一番きれい」

僕の中心がびくんと跳ねた。

「おまえが一番きれいだ」
「………あ、あの……」
「からだも、そのなかみも。全部」
「……え、と、」
「おまえに触れても?」
「え、あ、はい、ど」

どうぞ、と言う前に僕の腕は掴まれて、土方さんの布団に引き摺り込まれていた。



「あの、土方さん。最終確認してもいいですか?」
「うん」
「僕、立派な男です」
「ああ。しっかり確認した。もう勃ってるしな」
「…………ちょっ、やっ、さわらな…」
「つーか、別に何度も見てるしよ」
「………酔った勢いとか……一夜の過ちとか………そんなの嫌です」
「そんなんじゃねぇよ」
「明日になって、朝起きて隣で僕が寝ていて『ええっ!!』って飛び上がられるのも御免です。そんな事態になったら僕はあなたを斬るのでそのつもりでいて下さい」
「馬鹿か。ちゃんと覚えてる。それに寝かせると思ってんのか」
「え、眠らないの」
「うん。寝かせねぇの」
「僕は寝ますよ」
「………」
「それから!僕、男の人とは初めてです」
「当たり前だ。初めてじゃなかったらその相手を今から殺しに行く」
「え……えーと、あとは……」
「だーうるせえ!もう黙ってろっ」

そう言って土方さんが僕の唇を土方さんのそれで塞いだ為に、僕は肝心な事が聞けなかった。「どっちが上ですか!」と。




翌朝布団の上で正座した土方さんが言った。

「あのよ。その、えーと、えーと。
これには深い理由が、その、つまり、あの、だな…………総司、おまえが好きだ」

それを最初に言ってよね…………
しゃくだから「僕もです」って台詞は当分言わないつもりだ。




















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