01/17の日記

04:10
土沖成人式土方先生視点2
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「今度、2人で会わねぇか」思い切ってそう言うと、あいつは咄嗟に少しごねた。けれどそこでもう一押しされたい奴だということも知っていたし、そういうところが変わっていないこともこの数十分でわかった俺は、あの頃のように遠慮を捨てて、もう一度あいつに「2人で。」とはっきりと迫った。

俺の選択は間違っていなかったと思う。一見わかりにくい総司の表情を、久しぶりに見たが変わらず嬉しそうだとちゃんとわかった。照れた顔を隠す手を退かすたったそれだけしか触れることもしなかったが、握っていたスマホを出して電話番号とアドレスを交換し、近いうちに連絡すると言ってから別れた。

極度の緊張から一気に解放され、どうにも顔が笑ってしまって不審者のようだ。こんなにも明日を明るく感じたことはこれまでになかった。あまりガツガツしていると思われないためには少し時間を置くべきだろうか、そう悩んでいるとメールの着信音が鳴った。沖田総司と表示された名に更に浮き足立つ。

メールを開けば目に飛び込んで来たのは『僕たちってもう付き合ってるんですか?』などという、どうにも間の抜けた問いだ。もう少し時間を掛けて格好よく落としてやろうと狙いつつも、あまりにも甘酸っぱくて古びた街灯の下で頭を抱えてしゃがみ込んだ。くそ……あいつも今こんな風に幸せなんだろうか。

メールを開けば目に飛び込んで来たのは『僕たちってもう付き合ってるんですか?』などという、どうにも間の抜けた問いだ。もう少し時間を掛けて格好よく落としてやろうと狙いつつも、あまりにも甘酸っぱくて古びた街灯の下で頭を抱えてしゃがみ込んだ。くそ……あいつも今こんな風に幸せなんだろうか。

もう駄目だ。俺の気持ちは限界まで高まってしまった。絶対に口説き落とすというやる気を覗かせる返信をした後、結局俺の方があまり待てそうにないので次の日曜に会う約束を取り付けた。その日は全く眠れなかったが胸がいっぱいで枕さえ総司に見えてきてしまい、一晩中抱き締めて寝返りを打っていた。

翌日、余韻に浸りながら自分の準備室で次の授業の用意をしていると、ノックをして入ってきた原田に突然バンと叩くように強く肩を抱かれた。「で、総司とはうまくいったか?」一瞬何が起きたのかわからなかった。瞬間湯沸かし器のように一気に頭が沸騰し、原田の顔を見返してただ口をパクパクさせる。

@hjok_shumari: 「なに、言って…」こんなに動揺したところを見られるのは初めてだ。自分でもわかるほどに顔が熱い。きっと俺は今猿の尻レベルに赤い顔をしているに違いない。「無駄じゃなかったな、あいつを追っ掛け続けた3年」こいつもしや、昨日の時点で俺達の空気に気付いていやがったってのか……なんて野郎だ。

そう言えば、唯一俺が誰とは言わず惚れた相手がいるなんて話をしたことがあるのは原田だった。あの時も酔った勢いだったが、この野郎いつから相手が総司だと気付いていやがったんだ……何も言えずに目を逸らしてデスクの上の書類の端を弄っていると、原田はとても晴れやかな顔で白い歯を見せて笑った。

「あの頃あんた、あいつの卒業が近付くにつれ酷い窶れ方してたもんなぁ。期限付きの関係だなんて、初めっから諦めちまってたしよ」そんなにわかりやすかったのか俺は……。今更顔を覆ってみたってもう遅い。恐る恐る聞いたところ、幸いにも他の連中は気付いてはいないそうでホッと胸を撫で下ろした。

久しぶりに服なんぞ買ってしまった。待ちに待った日曜日、昼に待ち合わせて電車で出掛け、まだ混んでいる有名な神社で一緒に初詣をした。おそらく互いに2人の今後を願ったと思う。適当に街を歩き、夜は洒落た店を選んで少し酒を飲みながら、離れていた間のことや高校時代の思い出を遅くまで語った。

別に、教え子とはいえ大の男を家まで送ってやる義務なんざありはしない。それをするのはただ俺が、居られる限りあいつと一緒に居たいからだ。人通りもない深夜の住宅街を、一歩一歩足を投げ出すような緩やかなテンポで2人並んで歩いて行く。車道側を譲ったのは、ふいに支えられた背が嬉しかったから。

もうすぐ家に着いてしまう。残念で、とてももどかしい。けれどそこには明らかに甘さが含まれていて、次の約束を取り付ける言い訳を、そろそろしてみる頃合いだと思った。「全然、話し足りねぇな」そう言うと、あいつは肩を竦めてクスッと笑った。「そうですか?けっこういろいろ話したと思いますけど」

確かにいろいろ話したが、俺は「次に会ったらその時までの、おまえの話を聞きてぇよ。この先ずっと、そうやって繰り返していきてぇと思ってる」総司は少し目を見開き、花が綻ぶように口角を上げて頬を緩めた。「僕、おしゃべりですよ」「おまえが寝るまで聞いててやる」……うまく、落とせただろうか。

それまで終始俯き加減に会話をしていた総司は、何かが吹っ切れたように後ろ向きに歩いたり、俺の顔を覗き込んだりして楽しげに話し始めた。まだそんなにネタがあるのかと驚いたものの、あの頃のあいつがそのまま戻って来たようで、懐かしくなって目を細めては頷いてやる。ああ……もうすぐ着いちまう。

「手、繋ぐか」そう言うと返事はなかったが、躊躇いがちにあいつは俺の左手を握った。これまで誰かの手を引いたことしかなかっただろうこいつが、後ろから、俺よりも大きな手のひらで差し出した手をそっと握ったのだ。その時俺は痛感した。こいつがどれほどまでに、この恋を大切にしてきたのかを。

万感の思いを込めて、握られた指を交互に絡め直す。前を見つめたままで「大事にする。」そう言うと、あいつもまたぎゅっと手に力を込めて、照れた、けれど少し微笑んだ声で言った。「僕も……、あなたのこと、大切にします。」スタート地点がここでなければ、きっと一生聞けはしなかった言葉だろう。

もしも何年か前に一歩を踏み出してしまっていたら、こんな台詞は言えなかったかもしれない。お互い素直になれないまま、長くは続けられなかったかもしれない。大人になって少し冷えた頭はきっといい方に働くだろう。こいつと2人、進み始めるにはいい時期だ。今度こそ、期限のない恋の道を。

終わり

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03:57
土沖成人式土方先生視点1
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夕方、成人式を迎えた平助が来るというので職員室には待ち構えるようにして職員が集まっていた。思い出話に花を咲かせているとノックの音が鳴り、飛び出して行った原田や新八の向こうに見えた影に俺は震えた。まさかあいつが来るだなんて思ってもいなかった俺は、眩しいスーツ姿に思わず目を細めた。

原田たちと同じように驚き喜ぶ近藤さんに迎えられ嬉しそうに破顔したあいつは、俺のことなど見ることもなく廊下で話し込んでいる。相変わらずしっかりした様子で挨拶に来た斎藤はすっかり大人びていて、こいつならどこに出しても大丈夫だと思った。平助は変わらないが、あいつはそれでちょうどいい。

総司が俺に惚れていたことには気付いていた。だがまだ高校生だったあいつにとってそれは若気の至りであり、時が経てばきっと後悔することなのだろうと思っていた。生意気な態度を取りながら一生懸命寄ってくる姿がいじらしくて可愛くて、気付けば誰にも渡したくないと思っているのは俺の方だったのだ。

大人になったあいつはまんまと俺に興味が無くなったらしい。居酒屋に移動するまでの間にあいつが俺を見ることは、ただの一度もなかったように思う。やはり若気の至りだったのだ。何かが芽生えてしまわないうちにしまい込んでよかった。俺は感情を殺して、誰ともなく話しながら居酒屋へと向かった。

新八が座り源さんが座り、続いて俺も壁を背にしてテーブルの向こうの席に座った。早々に運ばれてきたおしぼりを島田が配り、それを受け取ろうと手を出すと総司が慌てているのが見えた。一生懸命靴を脱ぎ、本人は涼しい顔のつもりだろうがあまり慌てることのないあいつが急いで座ったのは俺の隣だった。

鮮やかに蘇るのは、在学中に見せていた、健気なまでに追いかけてくるあの姿だ。嫌い嫌いとわざわざ言いに来る大人びたようで幼い表情。そのくせもしも俺があいつを嫌いだなどと言おうものなら、途端に砕けて無くなってしまいそうな、危うくて儚いあいつが俺はとても大切で、そしてとても愛おしかった。

席に座ってからも、総司は話しかけては来ない。もしやわざわざ隣に来たのは思い過ごしだったかと、落胆した瞬間だった。ビールを吹いたあいつに驚き振り向けば、この日のために買ったであろうスーツを漂白剤の臭いのするおしぼりで思い切り拭こうとしていた。やはり俺はまだ、おまえの世話を焼きたい。

大人しく拭かれた後も総司は俺の方を見ることもなく、喧しい連中とやいのやいの騒いでいた。だがやはりどうもあいつの雰囲気には、俺への意識が強く感じられる気がした。便所に立ったあいつを見送ると、原田も新八も口を揃える。俺の隣にわざわざ座った、そう言われることがどれほど嬉しかったことか。

手がぶつかったのは偶然だ。その瞬間周りから音が消え、左手の神経が痺れるほどに研ぎ澄まされた。この歳になってときめきだなんてとても認めたくないが、これが恋以外の何かというならそんなものは俺は知らない。嬉しかった。僅か触れた指を離したくなかった。あいつにも、同じ思いでいて欲しかった。

牛スジなんぞを頼んで後悔した。あれを取り分けるにはどう足掻いても左手が必要だ。なるべく引き延ばそうとタバコを咥えてみる。すると総司もまた頑なに右手を動かすまいと、不自然なまでに左手だけであれもこれも済ませていた。繋いだ手を隠す秘密の恋人のような、無言だからこその空気が流れていた。

タクシーを待つ間、電話番号を聞こうとしてはやめた。勝手に想いを押し付けて、懐かしかっただけと言われて玉砕するのは怖い。何度も何度も取り出そうとしては躊躇い、握ったスマホに体温が移る。やってきた車に乗り込めばさっきとまるで同じように手がぶつかり、あいつは息を飲んで指先が少し跳ねた。

もしもこれで逃げられなければ可能性が見えるかもしれない。僅かの望みを賭けて、重なった指先を手繰り寄せた。俯いた総司の顔色は暗い車内でわからなかったが、その表情は頬を染めるような、少しだけ甘いものに見えた。期待してもいいのか、そう迷う時間は妙に長く、そして妙に短く感じられた。

自宅までは少し距離があるものの、別れ難くて総司の家で一緒にタクシーを降りた。ずっと右手で待機しているスマホを出そうか出すまいか迷う。あいつもまたすぐに部屋には入ろうとせず、お互い顔を見られないまましばらく向かい合っていたが、このまま何もしなければ、どうせ二度と会えないと気付いた。

2年前の春、卒業を迎えた総司はいつものようにただ「さよなら」と言って去った。あの瞬間が来るまで死刑囚のように過ごした日々が頭の中を過る。あの時と同じシンプルで絶望的な別れに、もう一度耐えられる自信は今の俺には無かった。何年諦めを待ってみたって俺はきっと、結局こいつのことが好きだ。

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