08/12の日記

15:42
花ある生活(シンルナ)
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ときめきとか、淡い期待とか、そういう甘ったるいものは、自分たち二人に最初から縁遠かった気がする。


「なあ、ルナー」


後頭部の寝癖もそのままで、スエット姿の恋人がルナマリアを呼んでいる。

振り返れば、シン・アスカ。

せっかくの休日だというのに、ルナマリアが叩き起こすまで寝入っていた彼はぼさぼさの髪を直そうともしない。


「なに」

「あのさー、夜からまたゲームするから、今のうちに寝溜めするわ」


だから起こして、と、言いかけたシンの頭を、ルナマリアは手にしていた窓拭き用のクリーナーで叩いた。

あたしはあんたの家政婦じゃないっつーの!

二人の公休日が重なるなんて滅多にない。今は同じ部署で働いているが、いつ転属されるかもわからない、軍籍に二人はあるのだ。

だからこそ、ルナマリアは目一杯お洒落して、購入したばかりの(インターネット通販だが)勝負服でキメてきたというのに!

ルナマリアとて、軍人とはいえ十八歳のうら若き少女だ。

新装されたばかりの映画館に行ったり、評判のカフェテリアでお茶したり、夜の噴水公園で談笑したり…。夢はたくさんある。

我儘などではなく、年ごろの女の子ならば誰もが夢見るデート。

けれど、一歳年下の恋人ときたら、


「ルナとは映画の趣味が合わないからなー」

「へん!あんなキラキラした茶店、女子供の行くところだぜ」

「夜の噴水公園?変質者を取り押さえに行くのか?」



…全く女心というものを理解していない。もっと情緒とか、心の機微とか、勉強すべきではないだろうか。

しかも今は十年以上前に流行したという、もはやアンティークに近いゲーム機にどっぷりと嵌っていて、明け方まで夢中でプレイしているらしい。


(ほーんとガキなんだから)


部屋に帰っても、寝入っているか、モンスターと闘っているかしない恋人に、手持ち無沙汰のルナマリアは掃除に勤しむしかなくて。

お陰様で、シンの部屋は階段の手すりまで除菌が行き届いている。消毒液くせーよ、と、シンはぶつくさ零しているが、ルナマリアの冷ややかな眼差しに流石に黙り込んだ。


「…もう掃除するところなんて、ないだろ」



強烈な一撃を与えられた後頭部を摩りながら、シンはルナマリアの顔を覗き込む。

ふん、と、ルナマリアは窓拭きの後の埃取りを忘れずにしっかりと行いながら、


「もう帰るわよ」


と、鼻を鳴らした。

するとシンが後ろから抱き付いてきて、


「何だよー、さみしいじゃんよか」


と、子犬のようにじゃれついてくる。

これにはルナマリアも黙り込んでしまう。


「な、何よ」

「なー、ルナ」

「なに」


そして満面の笑みで、


「せっくす、しよう!」


そう言い放ったシン・アスカの顔面に、ルナマリアは拳を打ち込んだ。

苦悶の表情を浮かべて、床をのたうち回ること、数分間。

ルナマリアはといえば、来週はワックスを掛けるからどっか外出しててね、と、掃除用具の片付けを始めている。

真っ赤に額を腫らして、シンはきっと恋人に向き直る。



「ル、ルナ」

「手も繋がないくせに、なんでスケベを働くかな」

「…だって、ルナの手って生温かくてさー」


苦手なんだよ、と、ごにょごにょ口ごもりながら、言い訳を口にする恋人に、ルナマリアはそっとため息をついた。

年下だし、全くスマートじゃないし、素敵なデートなんて夢のまた夢。

だけど、何故か。(なぜか好きなのよねー)

アスラン・ザラなんかは、まさに憧れの男性だった。

少し頼りないところはともかくとして、男くさいところなんて微塵も感じさせず、清らかで、静謐とした雰囲気を纏っていて。

まるで、絵物語の王子様のような、甘く優しい美貌に、ルナマリアは夢中だった。

しかし、結局のところ、ルナマリアにとって一緒にいて居心地が良いのは、年下で、意地っ張りで、紳士的な振る舞いも知らない、この少年なのだ。(シンの前でだけ、私は十八歳の女の子でいられる)


だから、好き。


…スケベなくせに、恥ずかしがり屋で、人前で腕さえも組めない、デートさえ満足にできない内気な少年の頬に、ルナマリアはそっとキスをした。


(…な、な、何すんだ、ルナマリア!)

(…キスは恥ずかしくて、なんでスケベは働くかな⁉)



花ある生活
(ありのまま、恋し合っている)


END

シンルナ

ときめきはなくても、等身大に好き合っている二人(^^)

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