BL短編の小部屋
□綺麗な言葉
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玄関の重いドアを出来るだけそっと開け、寝室に行く前にまず浴室に直行した。
アルコールが飛び、冷え始めた体で熱めのシャワーを手早く浴び、Tシャツとスウェットを身に着けたら、ひなたの元へと向かう。
1度ひなたの顔を見てしまえば何もかもがどうでも良くなって、再起不能になってしまう自分を知っているから、やらなきゃならない事を済ませてそこでやっと、一日頑張った自分へのご褒美とばかりにひなたに会うんだ。
軋むドアを恨めしく思いドアを開けば、蛍光灯の光が暗闇に馴れ切った目の奥にツンツン突き刺さる。
「ただいま、ひな」
窓際に寄せたセミダブルのベッドの上で、朝脱ぎ捨てたまんま放りっぱなしだった俺のシャツと、モーフを抱き締めこじんまりと丸まったひなたの姿に、胸がぎゅうっと縮まった。
帰って来て暗かったら、舜寂しいだろ?
何故電気を煌煌と灯して眠るのか聞いた俺に、ひなたは照れた様に笑ったけれど、本当の理由がそれだけじゃない事はちゃんと判っていた。
寂しがり屋のひなたが1人きりで眠るのは辛すぎるから、どうにかしてそれを紛らわせたいんだろ?
「………ごめん、ひな」
よく見ると、目尻から耳の下へ流れた涙の跡が付いてる。
最近こうして俺を待つ間に1人泣く事が多くなったひなた。
ひなたが大学へ出かける頃は俺がまだ寝ているし、俺がこうして仕事から帰って来る頃は逆にひなたは寝ている。
気が付けば、この一週間まともに会話すらしていない。
「………ひな」
中学生で出会った俺は、急速にひなたに惹かれ、高校に上がって想いを成就させた。
一緒にいる理由が、好き…それだけで構わないのなら、きっとひなたも俺もこんなに苦しんだりしないのに。
舜は………不安じゃないの?俺達、どんなに愛し合ったって……未来はないんだよ――
いつかひなたが俺に言ったセリフ。
男同士…その事実に含まれる、様々な障害を知りつつひなたを選んだ俺。
そこから続くひなたの未来を、俺が壊してしまった。
……今だにひなたを巻き込んだ事が正しかったのかなんて、俺には判らない。
「ひな……俺を許してくれないか?」
うっすら白くなった涙の筋を人差し指できゅっきゅっとこすると、くすぐたいのかひなたの手が俺の指を払おうと宙で泳いだ。
「……んっ?」
小さな声と共に瞼が震え、ゆっくりとひなたの目が開く。