BL短編の小部屋
□綺麗な言葉
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「……しゅ……ん?おかえ……り」
眩し気に細めた瞳で俺を捕らえ、伸ばされた両腕が俺の首に絡み付く。
「今日は……会えたね」
まだ寝ぼけ眼で微笑むひなたが愛しくて、細い体をちょっと可哀相に思えるくらい、力一杯抱き締め返す。
「ただいま、ひな。ごめん起こして」
寝起きのひなたの体はポカポカと温かく、そう容易く手放せないからしばらくの間腕の中に閉じ込め、パジャマ越しのひなたの肌をじっくりと味わってみた。
「ごめんなー、ひな……愛してる」
「舜ヘン。なんで謝るの?」
俺がおまえを好きになったばかりに、傷付けてしまうだろ?
だから……ごめん。
「ひなた」
「なに?」
不甲斐ない俺には、取り巻くすべての物からおまえを守り抜く事も、おまえの不安を取り除く事も、きっと出来ないけれど。
―――我が儘な俺の傍に、いてくれよ。
「おまえといる俺は、誰よりも幸せなんだ。だから……俺を幸せにしてくれないか?」
「なんかプロポーズみたい」
ひなたのクスクスと笑う振動が胸に響き、寂しさやら愛しさやら、名称も知らない様々な感情が一気に溢れ出しそうで、俺は更に力を込め、ひなたを繋ぎ止めた。
「……俺から逃げないでくれ」
プロポーズ?
そんな気の利いたもんじゃないさ。
「舜?」
「ただの俺の我が儘だ」
本当は、おまえが望む綺麗な言葉を百も千も並べて、楽にしてやりたいのに、けっきょく口を付いて出るのは自分の欲求ばかり。
腕の中でそれまで身動ぎひとつしなかったひなたの肩が、小さく震えた。
「いいよ舜。俺が舜を幸せにしてあげる」
「……ひな……」
「舜が俺にたくさん幸せをくれるから、俺も舜にお返しするよ」
窮屈な腕の中から俺を見上げたひなたは、ひどく安らいだ顔をしているから……
「俺達の選択は間違いじゃない。そうだろ?」
「そうだね」
深く頷いたひなたを掬い上げるように、何度も唇を重ねた。
俺達の幸せはお互いだけに続いている。
ひなたがいて初めて満たされる俺と、俺がいて初めて満たされるひなたと。
「ひな……溶け合おっか?」
躊躇し、やっと頷いたひなたの瞼が小刻みに震えながら降りて行く。
「ちょっと待ってて」
ひなたを手放し電気を消した室内は、窓からの光でうっすら明るくて、遠くの方から小鳥の鳴く声が聞こえて来た。