BL短編の小部屋
□最悪な男
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結ばれる……なんて甘ったるいムードなんてなかったけど。
女にルーズだった瀬奈は、どうやら男にもルーズだったらしい。
こいつにしたら、どうせ妊娠の心配が無いだけ、男の俺の方が気楽だ……くらいの考えなんだろう。
………俺だって、最初はそうだった。
どちらかに彼女でも出来れば、もしかしたらこの関係も変わるのかもしれないけど、あんなに女まみれだったこいつも、どういう訳か、今じゃすっかり大人しくなっている。
情け無い俺は、こんな関係に傷付きながらも、瀬奈との関係を断てずにいた。
相変わらず瀬奈は、程良く陽に焼けた背中を俺に向け、美味そうに煙草を吸っている。
一瞬、その背中に縋り着きたい衝動に襲われる。
縋り着いて……
『俺のことちょっとは好き?』って訊いて、
まだこいつとはした事のない、濃厚なキスをして……
抱き合って眠る。
そんな有り得ない夢を見るなんて、俺は馬鹿だ。
「中野くんよぉ〜さっきからおまえの視線がビンビン突き刺さってるんですけどー俺の背中になんか付いてる?」
「付いてない」
「じゃあなんだよ?なんか言いたい事あんの?」
「………」
ニヤニヤと笑う性格の悪いこいつの、どこに惚れたんだ?
顔はまぁ悪くない。
いつもは浅い二重の瞳は笑うと奥二重に変わり、精悍な顔がちょぴっと和らぐ。厚い唇から覗く舌もセクシーだし、ゴツゴツとした大きな手も男らしくて、けっこう俺は気に入っている。
元々友人同士だったくらいだから、そんなに悪い奴じゃ無いけど……恋愛対象として見たら、こいつは最悪だ。
「しょうがねぇなぁー第4ラウンドいく?」
振り向いたと思うや否や、瀬奈が俺の上に覆い被さってきた。
やっぱ最悪だよ。
「おまえの頭の中ってそれしかないの?」
厭味っぽく言った処で、たぶんこいつはこたえないんだろうな。
実際彼の頭の中にはそれしかないのかもしれない。
運が悪いのは、こいつと出会った事でも、
こいつとこんな関係になった事でもなく……
俺がそういう奴じゃなかったって事だけ。
それが情の進化系なのかは判らないけど、何回も何回もやって、そうするうちに情ってヤツの中に愛なんて物がプラスされちゃったって事。
それが俺の普通だけど、目の前のこの男にはそうじゃない……それだけなんだ。