BL短編の小部屋
□最悪な男
3ページ/5ページ
「おまえ彼女作んないの?」
「なんだよ突然?」
惚けたように瀬奈が俺を見て、だけど俺もいつもみたいに視線を外す気はないから、お互いにしばし見つめ合っていた。
視線を外せば負けだ……何となくそんな気がして。
別に勝ち負けなんかないのに、なんでかそう感じる。
「中野おまえ今日おかしいって。ケンカ越しじゃねぇ?」
「別に」
ケンカする気なんてさらさらない。
ただもう、ちょっと限界に近いんだ。
瀬奈が呆れたみたいに笑って、ゴロンと俺の隣りに寝っ転がった。
「俺さ……おまえの便所じないよ」
「はぁ?」
「溜まったら俺に出して、おまえはそれでいいかもしんないけど……」
「ナニ?中野は気持ちくないの?」
「そんな事無いけど……」
気持ち良くないなんてそんな事無いけど、やっぱそれだけじゃ物足りない。
仮に瀬奈が100%のうち10%だけでも俺自身を求めてくれるんだったら、俺はまだ大丈夫。
けど、今のこいつは100%体だけ。
「正直……体じゃなく心がしんどいよ」
ヤり目だったら俺じゃなくたっていいじゃん。
心の中で呟いて、危なく泣きそうになる。
喉がじんじん痛んで、脳の奥ではじーんと変な音が響いて、鼻が詰まって……
瀬奈は俺が突然泣き出したりしたら、どう思うんだろう。
女々しいヤツ?
ウザいヤツ?
訳判らないヤツ?
何にしても良くは思われないだろう。
「もしかして中野……こういうのやめたいの?」
瀬奈の言葉に、オーバーでもなんでもなく心臓が止まるかと思った。
「中野?」
柄にもなく瀬奈が心配そうに俺を覗き込んできた。
「見んなよ」
心配されたくなくて、俺は胸の上で捲れたタオルケットを、瀬奈の下からグイグイ引っ張り、顔を隠す。
「なかのぉ?」
だから、そんな情け無い声出すなって。
どうせアレなんだ。
こいつが心配してんのは、便所がなくなる事。それだけなんだから。