BL短編の小部屋

□最悪な男
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「おまえ彼女作んないの?」
「なんだよ突然?」


惚けたように瀬奈が俺を見て、だけど俺もいつもみたいに視線を外す気はないから、お互いにしばし見つめ合っていた。

視線を外せば負けだ……何となくそんな気がして。
別に勝ち負けなんかないのに、なんでかそう感じる。


「中野おまえ今日おかしいって。ケンカ越しじゃねぇ?」
「別に」


ケンカする気なんてさらさらない。
ただもう、ちょっと限界に近いんだ。

瀬奈が呆れたみたいに笑って、ゴロンと俺の隣りに寝っ転がった。


「俺さ……おまえの便所じないよ」
「はぁ?」
「溜まったら俺に出して、おまえはそれでいいかもしんないけど……」
「ナニ?中野は気持ちくないの?」
「そんな事無いけど……」


気持ち良くないなんてそんな事無いけど、やっぱそれだけじゃ物足りない。

仮に瀬奈が100%のうち10%だけでも俺自身を求めてくれるんだったら、俺はまだ大丈夫。
けど、今のこいつは100%体だけ。


「正直……体じゃなく心がしんどいよ」


ヤり目だったら俺じゃなくたっていいじゃん。

心の中で呟いて、危なく泣きそうになる。

喉がじんじん痛んで、脳の奥ではじーんと変な音が響いて、鼻が詰まって……

瀬奈は俺が突然泣き出したりしたら、どう思うんだろう。

女々しいヤツ?
ウザいヤツ?
訳判らないヤツ?

何にしても良くは思われないだろう。


「もしかして中野……こういうのやめたいの?」


瀬奈の言葉に、オーバーでもなんでもなく心臓が止まるかと思った。


「中野?」


柄にもなく瀬奈が心配そうに俺を覗き込んできた。


「見んなよ」


心配されたくなくて、俺は胸の上で捲れたタオルケットを、瀬奈の下からグイグイ引っ張り、顔を隠す。


「なかのぉ?」


だから、そんな情け無い声出すなって。

どうせアレなんだ。

こいつが心配してんのは、便所がなくなる事。それだけなんだから。
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