BL短編の小部屋
□だって、ずっといっしょ。
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日向の背中には大きな傷がある。
稲妻が走ったみたいなその傷跡は……俺が付けたんだ。
だって、ずっといっしょ。
「ひゅーが……」
肩甲骨の窪の下から斜めに落ちた大きな傷跡を見て、妙に掠れた、風みたいな声が喉の奥から洩れた。
「ハル?どうした?」
春野という俺の名字を日向だけはどういう訳か、ハルと呼ぶ。
幼稚園で出会った頃はハルちゃんだったそれは、高校に上がった今、ハルへと少しだけ変化を遂げた。
その傷は、彼がまだ俺の事をハルちゃんと遠慮がちに呼んでた頃に出来た傷だ。
「ハル?もしかして、これ見て落ち込んでんの?」
「だって―――」
だって、俺のせいだから。
日向の滑らかな背中を這う、蛇みたいな傷跡も、
顔も腕も足も、全部が日に焼けてるのに、胸と背中だけは白いのも、
着替えの時はこっそり教室の隅に行って、壁に背を当てて服を脱ぐのも、
全部全部………俺のせいだから。
「だからやだったんだよ。おまえの前で着替えんの。見たらまた落ち込むだろ?」
「だって………」
「だって、だって。おまえの口癖」
日向はわざと俺を真似た口調で、だってを繰り返す。ニッと吊り上げた唇の隙間から白い歯が覗いて、犬歯が野性的に輝いた。
日向はかっこいいんだ。
男の俺から見たってそれは明らかで。
なのに17年間も彼女を作らないのは、やっぱり背中の傷跡のせいだと思う。
女の子に背中を見せて、引かれるのを危惧しているから。
「だってでやめちゃうのはさ、ハルの中にまだ言えないで言葉の続きが残ってるからだ。だってなんだ?言ってみな」
日向が一歩前に出て、俺との距離を詰めた。
だから、今度は俺が一歩下がって日向から離れる。
するとまた一歩進む日向。下がる俺。
「ばか。鬼ごっこしてんじゃないんだぞっ」
だって、おまえが側に来るから
……また『だって』だ。
少し怒ったみたいな、それでいてどこか楽しんでいるみたいな顔をして、日向は懲りずに一歩近付く。
「―――あっ……」
「ざーんねん!もう行き止まりだよ」
下がり掛けた俺の右足は、日向の部屋の真っ白な壁によって、無情にも阻まれてしまった。
「ハル、言いな。だって何?」