BL短編の小部屋
□あなたに誓う。
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ゴールデンウィーク最終日。
外は穏やかな風が吹き、抜けるような5月の青空が広がっている。
静かに吹いた風が、一瞬髪を更ってはどこかへ消えていく。
彼とは会う約束もしていなかった。
なのに、さっき下のインターホンを鳴らした時はさほど驚いた様子もなく、すんなりエントランスへのドアを開けてくれた。
メールくらい入れれば良かった……なんて後悔していたのも馬鹿らしいくらいに。
俺は小さく息を吐くと、玄関前のチャイムを鳴らした。
「おぅ、いらっしゃい」
「あ……俺……突然来てすみません」
彼に会ったら普通に笑える様、来る途中何度もシュミレーションしてた筈なのに、いざ彼を目の前にすると、頭の中の全てがどこかに飛んでしまう。
「成瀬さん…寝てました?」
なるべく彼とは目を会わせずに、口元だけ笑って見せた。
黒いランニングシャツも、色褪せたジーンズも、適当にあったものを掴んで着た印象がある。
目線を逸らした先に、成瀬さんの厚い筋肉に覆われた、むき出しの腕があり、それだけで焼け付く様な感情が吹き出し始める。
「いや、さっき起きてシャワー浴びようとしてたとこ。さすがに裸でお出迎えって訳にはいかないだろ?」
意味深にニヤリと笑った成瀬さんに、俺はもう言葉を返す余裕もなくなっていた。
「葵もとにかく、入れば」
成瀬さん、葵。
俺達は、互いに名字で呼び合う程度の仲でしかない。
判り切っている事なのに、今更息苦しさを憶えるなんて……
細い廊下を通り、リビングに向かう間、成瀬さんの広い背中を見る事すら辛くて、俺はただ白っぽいフローリングの木目を見つめていた。
「座ってろよ。俺シャワー浴びて来るから」
リビングに俺を通すなり、成瀬さんは言った。
「はい……あの……聖香(せいか)ちゃんは?」
聖香ちゃんとは、俺の大学のゼミ仲間で、成瀬さんの彼女だ。
2人はこのマンションで同棲している。
大学院生の彼と引き合わせてくれたのも、聖香ちゃんだった。
「友達と会うって出かけてった……そうだ、葵はどうすんの?」
「なにが……ですか?」
「シャワーだよ。面倒だから、一緒に浴びるか?」
成瀬さんの言葉に、心臓が加速する。
「その気で来たんだろ?」